静かな軍需
その場に呼び出された職人達は、解散を告げられた後も、すぐには立ち上がらなかった。
誰もが、渡された紙と頭の中の設計図を見比べていた。
「……手で投げる、殺傷能力のある武器、か」
ロットが低く呟く。
「今までの竹筒は、威嚇や混乱用だったが……今回は違うな」
学術員も頷いた。
「爆発力を上げるとなると、火薬の配合と殻の素材を変える必要があります。下手をすると投げた側も危険になる」
タルトは腕を組み、別の点を見ていた。
「それより気になるのは、火縄の大型化だ」
紙に書かれた一文を指でなぞる。
「“二個の車輪を付けて、荷馬車や人が運び易い形”……これは、もう個人携行じゃねぇな」
「半固定兵器だな」
ロットが即座に答える。
「据えて撃つ。あるいは引いて移動する。城門や港、街道の要所向きだ」
その時、思い出した様に、セリアの言葉が脳裏をよぎる。
――製造は各自の工場で。
――実験場については、後日連絡するわ。
――もしくは、実験をしたくなったら、私に言って。
「……実験したくなったら、か」
タルトが苦笑した。
「普通は止める台詞だろ、それ」
「奥様は、“やる前提”で話してたな」
学術員が静かに言う。
「だからこそ、こちらも半端な物は出せない」
ロットは立ち上がり、深く息を吐いた。
「各自の工場でやるって事は、表向きは通常業務だ。余計な噂は立てるなって意味だろ」
「だな」
タルトも立ち上がる。
「そして、完成した時点で一気に揃える……そういう段取りか」
三人は顔を見合わせた。
誰も「やめよう」とは言わなかった。
「……俺は、車輪付き火縄の試作から入る」
タルトが言う。
「反動と安定性を考えないといけねぇ。下手すりゃひっくり返る」
「私は火薬の試験配合を数パターン用意します」
学術員が続く。
「殺傷力、破片の飛散、火の付け方、安全性……全部洗い直しですね」
「俺は、投擲用の外殻だな」
ロットが肩を回す。
「量産を考えるなら、木と金属の合わせ技だ。軽くて割れやすく、でも扱いやすい形を考える」
決まった。
誰かが号令をかけた訳でもない。
だが、それぞれが“やるべき事”を理解していた。
部屋を出る直前、ロットがぽつりと呟く。
「……これ、本当に“守る為”なんだよな」
タルトは振り返らずに答えた。
「守る為に作るから、守れるんだろ」
学術員は最後に静かに言った。
「準備しない者から、奪われる。それだけの話です」
その日、フェルナード領の各工場では、表向きはいつも通りの音が鳴り続けていた。
だがその裏で、戦を想定した“物作り”が、静かに始まっていた。




