背中を預ける相手
「……パナーさん。流石ね」
書類を一枚一枚確認しながら、セリアは静かに言った。
「いえ。元々そういう仕事でしたから……」
パナーは肩を竦めるが、目は真剣だ。
「準裏人材は、これで問題ないわよ。それに――この三名」
セリアは別の紙束に指を置いた。
「中々の人材ね」
「はい。三人とも元からの住人です。経歴も調べましたが、怪しい所はありません」
「確かに」
セリアは一人一人の履歴に目を走らせる。
「ガリオンからの侵攻を受けた時、女性ながら志願して前線に立った……」
一瞬、空気が引き締まる。
「覚悟がある人間ね。こういう時に、逃げない」
セリアは書類を揃え、決断を口にした。
「この三人には、私から直接接触するわ」
「……了解しました」
パナーは一瞬だけ驚いたが、すぐに頷いた。
「それと、もう一つ」
セリアは顔を上げる。
「王都に行っているアステリアちゃん。――背中を気をつけるように伝えて」
「私が、ですか?」
思わず聞き返すパナーに、セリアは即答した。
「そう。かなり重要よ」
少し間を置いてから、続ける。
「裏の買取の話もしていいわ。恐らく王都では、表でかなり派手に売り払ってる筈だから」
「……」
パナーは、事の深刻さを理解した。
「つまり……もう“動いている”と?」
「ええ。確実に」
セリアは静かに頷く。
「だからこそ、アステリアちゃんには知ってもらわないといけない。これは警戒じゃない。準備の話」
「分かりました」
パナーは深く一礼する。
「急いで向かいます」
「お願い」
セリアは最後に、少しだけ声を落とした。
「――派手に動いている時ほど、背中は無防備になるものよ」
パナーが部屋を出た後、セリアは一人呟いた。
「さて……向こうは“事故”のつもりかもしれないけど」
視線は、机の上の別の書類――港と街道、そして人の流れを示す図へ。
「こちらは、“戦争の前段”として受け取るわ」
静かに、だが確実に。
フェルナード領の歯車は、防御から迎撃へと移り始めていた。




