即断
報告は、その日のうちにセリアの元へ届いた。
机の上に置かれた袋。
中身は、予定通りの現金。
だが問題はそこではない。
「……なるほどね」
セリアは、パナーからの口頭報告を聞き終えると、特に驚いた様子もなく小さく息を吐いた。
「旧ガリオン領で、貴族筋と思われる品の現金化が増えている、か」
パナーは、少しだけ言葉を選びながら頷く。
「はい。数も、一人や二人という感じではありません。店主の話では、ここ最近――です」
「機構からは、まだ何も上がってきてない?」
「今のところは……」
セリアは、机に指を置き、軽く叩いた。
(やっぱり、表より先に裏が動いたわね)
王都の再編。街道整備の失敗。
爵位降格や廃嫡の話。
不満を抱えた者が、何もしない訳がない。
そして、動く前にやる事は一つ。
金を作る。
「……予定、前倒しね」
そう呟くと、セリアは顔を上げた。
「まず、二つ決めるわ」
パナーと、リディア付きの秘書が姿勢を正す。
「一つ。この現金、当初予定の半分は“即使える予算”に回す」
「もう……ですか?」
「ええ。もうよ」
セリアは迷いなく言い切った。
「裏は、動き始めたら止まらない。こちらが先に目を作らないと、後追いになる」
そして二つ目。
「機構には、正式な“異常なし”の報告を出させて」
二人が一瞬、目を見開く。
「……よろしいのですか?」
「いいの。今は“表”には見せない。その代わり――」
セリアは、静かに笑った。
「準裏の人材、優先的に配置。商人、職人、運送、港。金が動く場所に“偶然いる人”を増やすわ」
「裏家業ではなく……?」
「まだ、ね」
完全な裏を動かすのは、決定的な証拠が出てからでいい。今は、気付かれずに、網を広げる段階だ。
「それと」
セリアは、少し声を落とした。
「貴族関係者に囚われず、最近急に羽振りが良くなった家。機構とは別口で、私にだけ報告を」
「……承知しました」
「騒ぎになる前に、潰すわ」
淡々とした声だった。だがそこには、はっきりとした意思があった。
金が動き始めた。ならば、答えは一つ。




