二つの顔を持つ塔
領都の外れ――
少し中心から距離を置いた場所で、一本の塔が静かに姿を現し始めていた。
見張塔。それが正式な用途だ。
だが、それを知る者は少ない。
この塔は、フェルナード領で初、いやこの世界ではの鉄筋コンクリート製の建造物だった。石積みとも、木造とも違う質感。
無機質で、滑らかな壁面は、否応なく人の目を引く。
「何だあれは?」
「高いな……」
「新しい観光施設らしいぞ」
噂は、自然と広がっていった。
表向きの触れ込みは単純だ。
――領都とその周辺を一望できる展望塔。
風景を楽しめ、行商人や旅人にも人気が出るだろう、という説明。
実際、それは嘘ではない。
塔の上部には、確かに一般向けの展望スペースが設けられていた。階段も、案内板も整備され、誰でも利用できる造りになっている。
だが――それは“表の顔”に過ぎない。
塔の内部は、二重構造になっていた。
観光用の動線と軍用の動線。
壁一枚、床一枚で隔てられ、互いに交わることはない。
一見しただけでは、気付けない。
内部を案内されても、気付かせない。
意図的に、そう設計されていた。
軍用部分への入口は、同じ敷地内にありながら、完全に別。
そちらは展望塔の“付属施設”として扱われている建物だ。
表向きは、警備詰所。だが実態は、警備隊の待機場。
そこから直接、塔の軍用区画へと入ることが出来る。
軍用区画には、
・領境方向の監視設備
・港方面の視認ライン
・狼煙や信号を上げるための設備
・緊急時の連絡用導線
が、静かに組み込まれていた。
観光客の歓声のすぐ裏側で、領地を守る為の“目”が、常に開かれている。
「機能しないのが一番」
メイヤは、そう言っていた。
だが、機能しないまま終わる為にこそ、完璧に作る。
それが、この塔の存在理由だった。
工事は、予定通り着々と進んでいる。
誰も疑わず、誰も恐れず、誰も気付かぬまま。
フェルナード領は、今日も平和だ。
――少なくとも、今のところは。




