静かに張られる影の網
セリアは、各部署から回ってきた書類を机の上で整理していた。
積み上げられた紙束は、量だけならいつも通り。
だが――内容が違う。
「……このままでは、少し不味いかな」
独り言のように呟くと、すぐに行動に移した。
呼び出したのは、メイヤ付きの秘書パナーと、リディア付きの秘書。
その呼び出しの話を聞いた瞬間、パナーは胃の奥がきゅっと締め付けられる感覚を覚えた。
「……何だろ」
理由は分からない。だが、嫌な予感しかしない。同じく、リディア付きの秘書も顔を強張らせていた。
「何かしら?」
「さあ……でも、ろくな用じゃなさそう」
「忙しいところ、悪いわね」
穏やかな声だった。
それが逆に、二人を緊張させる。
「いえいえ……何用でしょうか?」
セリアは答える代わりに、机の下から麻袋を一つ取り出し、どさりと置いた。
「まず、一つ目」
袋の口を少し開ける。
中に詰まっていたのは――宝石やらの装飾品。
「この中身を、足が付かない形で現金化してきて」
「……これは……あの時の……!」
思わず声を漏らしたのは、パナーだった。
「あの、これは、どこから……?」
セリアは少し考えるような素振りを見せてから、あっさり言った。
「んー。王都で略奪しているのを見つけたから、そいつらから」
沈黙。
「……現金化して、どうなさるおつもりで?」
「この領内で、秘密情報機関を設立します」
二人の背筋が、同時に伸びた。
「まずはお金が必要でしょ?来年からは予算を正式に組むから、それまではこれで」
「二つ目」
セリアは指を立てる。
「この領内で人を探して」
「条件は三つ。表家業と裏家業、両方できること。忠誠心があること。そして――口が固いこと」
二人は無言で頷いた。
「三つ目は……少し違うわ」
今度は、声の調子が変わる。
「準・裏家業の人」
「本来の仕事の中で、自然と情報が集まる立場。裏の話は一切しない。でも、知らないうちに情報を流してくれる人」
「……なるほど」
「以上よ」
セリアはきっぱりと言った。
「私が指揮を取ります。二人は所属が多そうだから……今まで通り、必要な時に呼び出す形で」
部屋を出たあと、二人は顔を見合わせた。
「……完全に、バレてるわね」
「ええ……」
だが、追い打ちのようにセリアの声が飛んだ。
「それと」
振り返らずに続ける。
「あなた達の“他の所属”にも、この話を流していいわよ!連帯したい部分もあるから」
その言葉に、二人は苦笑するしかなかった。
フェルナード領は、すでに守る段階から、探る段階へ移っていた。
そしてその網は、静かに、だが確実に――張られ始めていた。




