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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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回り始めた歯車

その頃、フェルナード領は確かな好景気に包まれていた。


領外からは原材料や資材が流れ込み、領内で生産された物資は次々と領外へと出荷されていく。


さらに、隣接するエドラン領からの物資も、

フェルナード領を経由して港へ運ばれ、海路へと流れていった。


かつて混乱に沈んでいた旧ガリオン領からも、「仕事がある」という噂を聞きつけ、人々が職を求めて流入してきていた。



領内では公共事業が止まることなく続いていた。


見張塔の建設。

港では造船所の整備。


それに合わせて警備隊は増強され、一部では試験的な徴兵制も始まっている。


「働く場所がある」

「稼げる」

「暮らせる」


その実感が、人を呼び、金を呼び、物を呼んでいた。


人・物・金が、領内をぐるぐると回り始めている。



各工場もフル稼働だった。


既存工場の増設工事。

新たに建てられる作業小屋。

見慣れぬ機械の音。


それに加えて、最近では珍しい食べ物も出回り始めていた。


燻製された魚。

保存を意識した加工食品。

領外ではまだ見かけない品々。


「フェルナード領は、何か違う」


そんな声が、商人たちの間で自然と広がっていく。

だが――

この活気の裏側で、誰もが薄々感じていた。


「順調すぎる」という違和感を。


好景気は、人を集める。

人が集まれば、情報も集まる。


そして情報が集まる場所には、必ずそれを利用しようとする者も現れる。


フェルナード領の歯車は、確かに力強く回り始めていた。


だがそれは同時に、周囲の視線を強く引きつけ始めているという事でもあった。


だが、その好景気は――

決して領内だけの話ではなかった。


王都では、商人たちの間で囁かれ始めていた。


「最近、フェルナード領を通る荷の量が妙に多い」


「港の回転が異常に早い」


「しかも、値が安定している」


利益を嗅ぎつける鼻は、どこまでも敏感だ。


商人だけではない。

仕事を任され、成果を出せなかった一部の貴族たちもまた、フェルナード領の名を耳にする回数が増えていた。


「あそこに任せれば上手く行く、だと?」


「結局、俺たちは尻拭い役か……」


苛立ちと妬みが、静かに溜まり始めていた。


一方、領内では――

機構を通じて、妙な報告が増え始めていた。


「領外からの視察が増えています」


「商人を装った者が、工場周辺を頻繁にうろついています」


「警備線の外から、見張塔を確認する動きも」


警備隊の詰所では、地図の上に小さな印が増えていく。


「ただの好奇心にしては多すぎるな」


「同じ顔を何度も見る」


リディア隊長はそう呟き、報告書を一段階上へ回した。



メイヤもまた、違和感を覚えていた。


工場の稼働状況。資材の流れ。人の出入り。


どれも数字上は順調。だが、視線が増えている。


「……少し、早すぎる」


好景気が始まってから、まだ時間は経っていない。それなのに、反応が来るのが早すぎた。


「これは――見られてるわね」


メイヤはそう判断し、警備隊と機構の連携を一段階引き上げるよう指示を出した。


まだ何も起きていない。

だが、何かが起きる前兆は、確かにそこにあった。


フェルナード領の歯車は、今や自分たちだけのものではなくなりつつある。


それに気づいた者から、静かに次の一手を考え始めていた。

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