戻れぬ者たちの選択
王都外れ、使われなくなった旧商館。
夜半を過ぎた頃、灯りを極力落とした室内に、数名の男たちが集まっていた。
かつては「上級貴族」と呼ばれていた者たちだ。
「……街道の件、正式にアステリアへ委任された」
低い声が、沈黙を破る。
「我々は完全に切られた、という事だな」
「王命だ。進捗不良、能力不足、指揮不全……理由はいくらでも並べられる」
別の男が、苦々しく笑った。
「結果論だ。条件が揃っていなかったのは事実だろう」
「だが、言い訳は通らん」
誰かが吐き捨てる。
「港も街道も、あの女が引き継いだ瞬間、“できて当たり前”にされる」
「……それが答えだ」
沈黙が落ちる。
この場にいる全員が理解していた。
自分たちは、再編の外に追い出された側だという事を。
「で、どうする?」
一人が問いかける。
「このまま黙っていれば、どうなる?」
「爵位は下がる。家は弱体化し、次代は無い」
「廃嫡で済めば御の字だな」
誰も否定しなかった。
「……なら、残された選択肢は一つだろう」
そう言って、今まで黙っていた男が口を開いた。
「“正当に戻る”道が無いなら、状況を変えるしかない」
空気が変わる。
「状況を変える、とは?」
男は、ゆっくりと言った。
「港も街道も、今は移行期だ。管理が完全に移る前――混乱が起きれば、再委任の話は白紙になる」
「……事故、か?」
「事故でも、問題でも、何でもいい」
男の目は、冷えていた。
「完成目前で不具合が出れば、王も動かざるを得ない。その時、代替案として我々が出ればいい」
誰かが息を呑む。
「それは……危険だぞ」
「分かっている」
男は即答した。
「だが、何もしなければ確実に終わる」
「問題は人手だ」
別の男が続ける。
「我々には兵も、正規の権限も無い」
「なら、外から連れてくればいい」
その一言に、数人が顔を上げた。
「……外、とは?」
「王都の外縁、仕事を失った者。街道整備から弾かれた労働者。金に困っている連中はいくらでもいる」
「扇動するのか?」
「不満は既にある。少し煽るだけだ」
一人が、声を潜めて言った。
「それでも足りぬ」
「なら――」
男は、そこで一拍置いた。
「王都の外の勢力と繋がる」
室内が、一気にざわつく。
「それは……」
「分かっている。一線を越える提案だ」
だが、男は引かなかった。
「だがな。王も、アステリアも、我々を切った。なら、こちらも“国の都合”を気にする必要は無い」
誰も、即座に否定できなかった。
「……情報だけ、だ」
誰かが言った。
「まずは、情報交換から始める。それだけなら――」
「もう遅いぞ」
男は、静かに告げた。
「この場に集まった時点で、我々はもう“安全圏”には居ない」
沈黙。
「進むか、滅ぶか」
「選べ」
誰も立ち上がらなかった。だが、誰も席を立つ事もなかった。
その夜――
失敗貴族たちは、取り返しのつかない方向へ、最初の一歩を踏み出した。




