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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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動く現場、選ばれた責任者

その日の夕刻。

街道整備区画の簡易詰所に、数名の若い貴族と文官が集められていた。


「……呼び出し、ですか?」


落ち着かない様子で辺りを見回す青年貴族。


年は二十代半ば。

家格は高くないが、以前から土木や物流の資料をよく読んでいた人物だった。


そこへアステリアが入ってくる。


「集まってもらってありがとう」


一同が背筋を伸ばす。


「単刀直入に言うわ。この街道整備区画、今日から責任者を変更します」


ざわり、と空気が揺れた。


「形式上の責任者はそのまま。でも、現場を動かす権限は別に置く」


アステリアは一人の青年を指した。


「あなたよ」


「……え?」


「今まで提出してきた改善案、全部目を通したわ。現場を“回す”視点を持ってる」


周囲が一斉に青年を見る。


「で、ですが私は……」


「家格? そんなもの関係ない」


アステリアは即答した。


「ここで必要なのは、“責任を持って判断する人”だけ」


一拍置いて続ける。


「決めていい。人員配置、作業順、休憩時間、資材の流れ。全部」


青年は息を飲んだ。


「……本当に、いいのですか?」


「結果を出せば、誰も文句は言えない」


「……やります」


その声は震えていたが、逃げてはいなかった。



翌日。


街道整備区画の空気は一変した。


「石材班は午前中に集中配置!午後は路盤固めに回す!」


「休憩所はこの位置!水と日除けを先に!」


「資材はここで一旦止める!規格確認してから搬入!」


指示が一本化され、作業が途切れない。


作業員の一人が呟く。


「……なんだ、今日は進むな」


「昨日までと全然違う」


昼過ぎには、明確に“形”が見え始めていた。


夕方、視察に来たアステリアが足を止める。


「……うん」


側近が尋ねる。


「如何でしょう?」


「合格ね」


視線の先では、人が動き、物が流れ、街道が“仕事”として成立し始めていた。


アステリアは小さく笑った。


「やっぱりね。現場は“人”で変わる」


そして静かに呟く。


「これで、逃げ場は無くなったわよ……みんな」


街道整備は、ようやく――前に進み始めた。


広がる噂、焦る者たち


王都の昼下がり。貴族街の一角にある小さな茶室で、数名の貴族が集まっていた。


「……聞いたか?」


低い声で切り出したのは、街道整備を任されていた“元責任者”の一人だった。


「若い貴族に現場を任せた、という話だろう?」


「そうだ。しかも形式上は我々のままだと」


杯を置く音が、やけに大きく響く。


「ふざけている……!我々は何の為に爵位を持っていると思っている?」


「だがな……」


別の貴族が、渋い顔で口を開いた。


「現場は、動き始めたらしい」


一瞬、沈黙。


「……嘘だろ?」


「いや。今朝の報告だ。進捗率が一気に上がっている」


「馬鹿な……あれほど金も人も足りなかったのに……」


「足りなかったんじゃない。使えていなかったんだ」


その言葉に、数人が顔を歪めた。



同じ頃。

王都の下町では、別の噂が広がっていた。


「聞いた? 街道、急に工事進んでるって」


「ああ。指揮してるの、若い貴族らしいぞ」


「へぇ……偉い人じゃなくても出来るんだな」


「むしろ、現場に居るからじゃねぇの?」


職人達の間では、その噂は好意的に受け止められていた。


「ちゃんと話を聞く責任者だってよ」


「水場も日除けもすぐ用意したらしい」


「……なら、あそこなら働いてもいいな」



一方、貴族街。


「このままでは……」


焦りを隠せない貴族が声を荒げる。


「結果を出せば、王は若い方を評価する!

我々は……何もしていない貴族として扱われる!」


「落ち着け」


年嵩の貴族が、低く諭す。


「だからこそ、だ。アステリアに――」


「……任せる、か?」


「“協力”という形なら、面子は保てる」


誰かが、苦く笑った。


「結局、尻拭いをしてもらうのか」


「生き残る為だ」


沈黙の中、誰かが呟く。


「……時代が、変わり始めているな」


その言葉に、反論する者はいなかった。



王都の空気は、確実に変わりつつあった。


名だけの貴族は不安に震え、若い貴族は機会を掴もうと動き出す。


そしてその中心には、いつの間にか――


アステリアの名が、静かに、しかし確実に広がっていた。

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