言い訳と打診
王城の一室。
そこには街道整備を任されていた数名の貴族が集められていた。
「……進捗が遅れている理由を説明せよ」
淡々と告げる王の声に、空気が一気に重くなる。
最初に口を開いたのは、年嵩の男爵だった。
「は、はい……王都では現在、多くの工事が同時に進んでおりまして、人手がどうしても――」
「人手が集まらぬ、と?」
「い、いえ、その……賃金を上げれば集まるのでしょうが、予算が限られており……」
王は眉一つ動かさない。
別の貴族が慌てて口を挟んだ。
「資材も不足しております!木材が港へ優先的に回され、こちらまで――」
「港は予定通り進んでいるが?」
「そ、それは……」
言葉に詰まる貴族達。
結局、誰一人として「指揮が悪かった」「判断が遅れた」とは口にしなかった。
王は静かに息を吐いた。
「もうよい」
それだけを告げ、彼らを下がらせた。
扉が閉まった後、側近が小さく呟く。
「……やはり、でございますか」
「予想通りだ」
王は短く答えた。
その頃、別の場所では、まったく違う話が進んでいた。
「アステリア様に、お取次ぎを願いたい」
王都の執務施設。
そう名乗り出たのは、王直属の調整官だった。
「街道整備について、ですか?」
「はい。一部区間を――いえ、実質的には“建て直し”です」
調整官は正直に言った。
「現在担当している貴族では、進捗も品質も見込めません」
「……それで、私の所へ?」
「アステリア様の配下は、港・資材・輸送、すべて結果を出しております」
少し間を置いてから、彼は続けた。
「街道整備を、可能な範囲で引き受けて頂けないかと」
アステリアは、しばし黙り込んだ。
「……街道、ねぇ」
港。輸送。人の流れ。それらを結ぶ“道”。
「条件次第ね」
アステリアは、静かに笑った。
「丸投げは受けないわ。人も、資材も、指揮権も。全部、はっきりさせて貰う」
調整官は深く頭を下げた。
「その条件交渉こそ、本題でございます」
王都では今、言い訳を並べる者達と、仕事を任せたい者達。
その差が、決定的になりつつあった。
王城・謁見の間。
玉座に座る王の前に、アステリアが立っていた。形式ばった場ではあるが、空気は張り詰めすぎてはいない。
「アステリア」
「はい、陛下」
王は一枚の書類を手に取り、静かに口を開いた。
「街道整備の件だが……一部区間を、そなたに正式に委ねたい」
一瞬、周囲がざわついた。
王直属の事業。それを“貴族一人”に委任するのは異例中の異例だった。
「対象は王都東側より、港へと繋がる主要街道の三分の一」
「……思ったより、大きいですね」
「失敗した区間だ」
王ははっきりと言った。
「指揮も、人の集め方も、資材管理も、すべてが甘かった」
一拍置いて、続ける。
「そなたの所は違う。港の復旧、輸送路の確保、商人との調整。どれも結果を出している」
アステリアは、静かに一礼した。
「光栄です。ですが……条件がございます」
「言ってみよ」
「人と資材の選定は、こちらに一任してください」
「……ほう」
「名目上の担当貴族が居るのは構いません。
ですが現場への口出しは一切不可。進捗と結果のみ、報告させて頂きます」
王は、少しだけ笑った。
「随分と思い切った条件だな」
「中途半端が一番、金と時間を無駄にしますので」
しばし沈黙。やがて王は、頷いた。
「良い。認めよう」
周囲の重臣が息を呑む。
「ただし――」
王の声が低くなる。
「結果が出なければ、責はすべてそなたが負う」
「承知しております」
即答だった。
「ならば正式に命ずる。街道整備・東部区画。
アステリアに委任する」
その言葉と同時に、文官が前へ進み、委任状を差し出した。
アステリアはそれを受け取り、深く頭を下げる。
「必ず、形にしてみせます」
謁見が終わり、廊下を歩きながら、側近が小声で尋ねた。
「……よろしいのですか?失敗すれば、責任は重いですよ」
アステリアは、肩をすくめた。
「失敗する前提なら、最初から受けてないわ」
そして小さく、しかし確かな声で続けた。
「街道は“道”じゃない。人と物と情報を流す“血管”よ」
王都の血管は、今、確実に彼女の手に委ねられた。




