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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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図面を見た父の沈黙

領主執務室。


机の上に広げられたのは、まだ粗い線の図面と木製の模型。

父は椅子に深く腰掛けたまま、しばらく何も言わなかった。


……長い。


あまりに長い沈黙に、同席していた機構隊長と近衛隊長は、視線を逸らしたまま微動だにしない。


父は、ゆっくり模型に手を伸ばした。

船首。前部開放構造。そして船底。


「……これは」


低い声だった。


「輸送船ではないな」


ですよね。


「強襲揚陸艦、を想定しています」


私がそう言うと、父はため息を一つ。


「聞いている。戦を想定した船でありながら、平時は輸送に使う、と」


模型を指で軽く叩く。


「正気か?」


「はい」


即答した私に、父は一瞬だけ目を細めた。


「理由を聞こう」


「港が狙われた場合、陸路は間に合いません

王都へ向かうにも、逃げるにも、船が無いのは致命的です」


「……漁船では不足か」


「はい。積載も、速度も、防御も」


父は図面をめくり、蒸気機関の仕様に目を走らせた。


「出力一・五倍、二基搭載……随分と欲張ったな」


「力は正義です」


「馬鹿正直だな」


そう言いながら、父は苦笑した。


「技術者の反応は?」


「模型から、と」


「当然だ」


父は椅子から立ち上がり、窓の外を見た。

港の方角。そして領境。


「……王都の空気は、良くない」


独り言の様に言う。


「噂はここまで来ている何も動かぬ貴族、動いた者、評価される者」


振り返り、私を見る。


「お前は、“次”を見ているな」


「はい」


「早すぎると思わぬか?」


「遅いよりは」


また沈黙。だが今度は、短かった。


「許可する」


機構隊長が目を見開いた。


「父様?」


「模型までだ」


父はきっぱり言った。


「実船は、模型の結果次第。費用、港への影響、他領への波及それらを見てから判断する」


「それで十分です」


父は頷いた。


「ただし一つ条件がある」


「何でしょう?」


「これは“私の暴走”ではないあくまで――」


少し間を置いてから、続けた。


「王都の情勢を鑑みた、防衛準備として扱う」


なるほど。政治的な言い方。


「解りました」


父は模型をもう一度見下ろし、ぽつりと言った。


「……お前は本当に、面倒なものを持ち込むな」


「誉め言葉として受け取ります」


「誰も誉めておらん」


だが、その口元は僅かに緩んでいた。


こうして――“変な船”は、正式に「検討対象」となった。


これで、船の計画は正式に「検討対象」となった。


まだ模型段階。実際に造るかどうかは、これからの結果次第だが、少なくとも「絵空事」ではなくなった。


見張塔三ヶ所については、既に建築準備に入っている。領都中央、港、領境。

それぞれが孤立せず、互いを補完する配置。


完成すれば、異変の察知から伝達までの速度は、今までとは比べ物にならなくなるだろう。

本来、使われないに越したことはない。

だが「使えない」より「使わずに済んだ」方が遥かに健全だ。


防御というのは、平時にこそ整えておくものだ。


部分的徴兵制も、現在は試験運用の段階に入っている。

常備軍を持たない代わりに、警備隊を中核とし、必要な時だけ即応できる体制。

定期的な短期訓練。最低限の装備と指揮系統。


全てが順調に回るとは限らない。

だが、うまくいけば――


この領地は、「何かあった時に動ける領地」になる。


それだけで、今までとは立場が違う。


王都の空気は重く、貴族達の思惑は、目に見えぬところで絡み合っている。


だからこそ、準備は静かに、しかし確実に進める。


まだ大きな波は来ていない。

だが、水面下では、確実に流れが変わり始めていた。


――備える時間は、今しかない。

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