紙の上の艦影
私が描いたのは、旧海軍が使っていた二等輸送艦――その“雰囲気”を借りたもの。
流石に、そのまま再現出来るなんて思っていないし、大きさも現実的じゃない。
でも、欲しい要素ははっきりしている。
まず一つ。
ロウルへ渡していない蒸気機関より、確実に力がある事。
二つ目。
荷馬車が最低でも四台、無理なく積める事。
三つ目。
接岸してから、荷馬車が速やかに展開出来る構造。
……うん。
改めて書き出すと、なかなか無茶を言ってる気がする。
それでも、形にしないと始まらない。
いきなり実船?無理無理。流石にそれは怖すぎる。
「まずは模型から作って貰おう」
自然と、そう口に出ていた。
縮尺模型なら、構造も確認出来るし、問題点も洗い出せる。
蒸気機関の配置、船底の形、甲板の高さ。
全部、実物を作る前に潰しておきたい。
――という訳で。
またまた、関係ありそうな人達を急遽招集する流れに。
木工師のロットさん
鍛治士のタルトさん
学術員のトトロさん
その他関係の有りそうな学術員さん
「話があるから、ちょっと集まって」
この一言で、嫌な予感を察した顔が浮かぶのが目に見える。でも、もう慣れた。
どうせ今回も、最初は首を傾げられて、次に呆れられて、最後に「……やってみるか」になる筈?
紙の上に描かれた艦影は、まだただの線。
でも、この線が、海を越える足になる。
そう思うと、少しだけ胸が高鳴った。
さて。今度は、誰が一番最初に頭を抱えるかな?
集められた面々は、予想通りだった。
ロットさんは腕を組み、図面を逆さにしたり戻したり。
技術者は、蒸気機関の数値だけをじっと睨んでいる。
学術員は、最初から半ば諦めた様な顔だ。
沈黙が、妙に長い。
「……まず聞いてよいか?」
最初に口を開いたのは、ロットさんだった。
「これは、“輸送船”でいいんだな?」
「基本はね。でも――」
「でも、だな」
被せ気味に言われる。
「この船底の形、喫水、機関出力……どう考えても“多少荒れてても突っ込む前提”だろ」
……ばれたか。
蒸気機関担当の技術者も、ため息交じりに口を開く。
「機関を二基。出力一・五倍。理論上は可能だが……船体強度を相当上げないと軸が持たん」
「つまり?」
「作れる。が、普通の船じゃない」
普通じゃない。うん。知ってた。
学術員が、控えめに手を上げる。
「荷馬車四台を“速やかに”展開、という点ですが……跳ね橋式か、前部開放式になりますね」
「どっちが良さそう?」
「前部開放式でしょう。ただし――」
全員が一斉に、私を見る。
「船首強度が地獄です」
……ですよね。
船大工が笑った。
「久しぶりだな。“やれと言われれば出来るが、責任は取りたくない船”は」
別の技術者がぼそっと呟く。
「戦が目的で輸送仕様、って……普通は逆だろ」
「今までは、そうだったからね」
私がそう言うと、今度は全員が黙った。
そして、誰かが言った。
「……模型、だな」
「ああ」
「いきなり実船は無理だ」
「同意」
「模型で潰せる問題は、全部潰そう」
一気に空気が変わった。
紙の上での無理難題は、模型の上なら“検討事項”になる。
蒸気機関担当が、真面目な顔で言う。
「正直に言うぞ。これは金も手間も掛かる」
「うん」
「だが……成功すれば、他に無い船になる」
船大工も頷いた。
「港が浅くても入れる。荷を下ろすのが早い。力任せで動ける」
「嫌いじゃない」
最後に、誰かが苦笑しながら言った。
「また、変な物を作らされるな」
――でも、その顔はもう拒否じゃなかった。
「じゃあ決まりね」
模型制作、正式決定。
この瞬間、“仮名・強襲揚陸艦(二号案)”は、
ただの落書きから、現実への第一歩を踏み出した。
さて。
次に頭を抱えるのは、模型を見たお父様かしら?




