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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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備えは静かに、しかし確実に

「徴兵制……だと?」


近衛隊長が、思わず眉をひそめた。


「王都でも全面的には採用していない仕組みですよ。それを、この領地で?」


「だから“部分的”だそうだ」


父は淡々と答える。


「常備軍は最小限。警備隊を核にして、普段は民として生活し、必要な時だけ兵になる。農閑期や職の合間を利用する形だと書いてある」


機構隊長が、書類を指で叩いた。


「……理屈は通ってるな。人も金も足りない領地で、即応性だけを確保する方法としては、かなり現実的だ」


「訓練も短期集中。二ヶ月に一度、数日。忘れきらない周期だ」


近衛隊長は腕を組み、低く唸る。


「指揮系統も整理されてる。現場指揮は警備隊出身者。身分より実務優先……」


そこまで言って、ふっと息を吐いた。


「……これ、素人の軍事案じゃないですね」


「だろうな」


父は苦笑する。


「誰かに吹き込まれたのかとも思ったが……どうも違う。王都の混乱、貴族の再編、港の動き。全部を見て、“次”を考えた結果だろう」


考えすぎだろ、あの年で?いや、考えなさすぎる方が危険か?


二人の隊長は、互いに視線を交わした。


「正直に言います」


機構隊長が口を開く。


「この計画、やらない理由が見当たりません。問題は、どこまで本気でやるか、です」


「中途半端にやれば、逆に不満も出る」


近衛隊長も続ける。


「だが、やり切れば……この領地は、もう“急襲されて終わる場所”ではなくなる」


父は、しばし沈黙した。


机の上の書類。

そこに書かれているのは、単なる防衛策ではない。


――この領地を、独立した一つの“力”として成立させる設計図。


「……分かった」


父は、静かに決断する。


「見張塔の建設、承認する。警備隊の再編も進めよう。徴兵制については、まず試験的に一部地区からだ」


「よろしいのですか?」


「ああ」


父は、ゆっくりと立ち上がった。


「急に備えるのではなく、備えを“日常”にする。あの子がやろうとしているのは、そういう事だ」


二人の隊長は、無言で頷いた。


この瞬間――

この領地は、知らぬ間に次の段階へと足を踏み入れていた。



どうやら見張塔の建設許可は無事に降りたみたいね。


本来なら、一度も役に立たないまま終わるのが一番いい。

それでも、備えが無いよりはずっといいのも確かだ。


領境、港、領都。

この三点を結ぶ見張塔が完成すれば、伝達速度は今までとは比べものにならない。

狼煙、光、音。状況に応じて使い分ければ、半日掛かっていた情報が数刻で届く。


それだけでも、防衛の考え方は一段階変わる。


徴兵制も、一部で試験的に行う許可が出た。

常備軍はどうしても金が掛かりすぎる。

平時でも給金と装備、訓練が必要になる以上、今の規模では維持が難しい。


だから、必要な時だけ動いてもらう仕組み。

普段は領民として生活し、定期的に訓練を受け、有事には兵となる。


警備隊を中核に据える案も了承された。

経験者が指揮を執るなら、混乱も最小限で済むだろう。


ここまでは、想定通り。


けれど――。


この領地に、まだ無いものがある。


地図に視線を落として、自然とため息が出た。


船。


港はある。

人も物も、少しずつ集まり始めている。

それなのに、外へ伸びる力が足りない。


防衛を考えるなら、海からの目と足は不可欠。交易を考えるなら、なおさらだ。


見張塔が「目」なら、船は「手足」。


次に手を付けるべき場所は、もう決まっている。


課題は尽きない。

それでも一つずつ、確実に進めばいい。


この領地はもう、流れに身を任せる場所じゃない。

自分たちで未来を選ぶ段階に、入ってしまったのだから。

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