三点を結ぶ視線
んー……。
地図を広げたまま、指でなぞる。
領境。港。領都。
「……遠すぎるわね」
領境と港の距離が、どうしてもネックだ。
今の警備体制では、それぞれが独立して守っているだけで、連動が弱い。
視線を地図の中央へ。
「領都の……真ん中か」
物見櫓より、もっと高い建造物。
見張り塔――いや、中央監視塔。
必要な高さは正直わからない。
でも、ここに一本、空へ突き刺さる様な塔があれば。
「……両方、見える筈」
建設経験は無い。でも今なら、鉄筋コンクリートが使える。耐久も高さも、木や石とは比べ物にならない。
「領境には、出城代わりの拠点がもうある」
問題は港だ。なら――
「港には、灯台兼・見張り塔ね」
海からの侵入も、陸からの異変も拾える。
中央の塔、領境、港。
「……三点、結べる」
伝達手段は?鐘?旗?……いや。
「狼煙ね」
黒火薬を使えば、煙の色や回数で合図も分けられる。夜なら火。昼なら煙。
地図の上で、三つの点が線で繋がる。
「防衛は、力じゃなくて“気づく速さ”」
警備隊。それとは別に、即応性の高い部隊。
「人員は……足りないわね。装備も」
そこまで考えて、ふっと息を吐く。
「……これは、お父様にも話さないと」
領内防衛の根幹だ。勝手に決めていい規模じゃない。
でも――何も考えずにいるより、ずっといい。
メイヤは、地図を畳みながら小さく呟いた。
「次は……守りを、形にする番ね」
静かに、でも確実に。領地は次の段階へ進もうとしていた。
書斎で書類を確認していた父の手が、ふと止まった。
「……これは……」
メイヤから回ってきた、纏められた書類。
一枚、また一枚と目を通すにつれ、表情が強張っていく。
中央監視塔。
港の灯台兼・見張り塔。
狼煙による三点連絡。
即応部隊の編成案。
「……ほう」
思わず、低く息を吐いた。
確かに――
王都の空気は、落ち着いているようでいて、どこか不穏だ。貴族の再編。若い貴族の登用。仕事を与えられ、追い立てられる様に動き出した者達。
「表に出ていない連中が、黙っているとは思えんが……」
そう考えていた矢先に、この書類だ。
「守りを“力”ではなく“連携”で組み立てる、か」
机に肘をつき、地図を見下ろす。
領境、港、領都。
確かに、今のままでは距離があり過ぎる。
「……これは、子供の思いつきではないな」
危機感。
それも、ただの恐れではなく、現実を見据えた危機感。
王都の様子から、何らかの動きがあるだろう事は、父自身も感じていた。
だが、それに対して――
「先に、備えようとしている、か」
ゆっくりと椅子に背を預ける。
「……末恐ろしい娘だ」
呆れとも、感心ともつかぬ笑みが浮かぶ。
この計画が実現すれば、この領地は、“攻められてから動く領地”ではなくなる。
「さて……」
父は書類を整え、決意する様に立ち上がった。
「これは、無視できんな」
次は――領主としての判断が、試される番だった。




