武器屋にて知らぬ間に国は動く ―
王宮が大騒ぎになっている――
そんなことを、この街の誰も知らなかったし、もちろん私たち三人も知る由もない。
メイヤ、リディア、ミュネの三人は、放課後の石畳を軽い足取りで歩いていた。
「武器屋さん、今日受け取りの日だったよね!」
「ええ。ようやく完成したらしいわ」
「ミュネ、楽しみ~!」
そんなお気楽な会話をしながら、いつもの老舗の武器工房へ。
扉を開くと、油と鉄の香りがむわっと立ち込める。
店の奥から、腕の太さが丸太みたいな親方が顔を出した。
「おう、来たかお嬢ちゃんたち!」
■ リディアの武器
まず渡されたのはリディアの注文品。
細めでクセのない長剣。
そして予備の短剣。
「おお……軽い。けれど芯がある……!」
リディアが感動しながら構えると、親方がうんうんと頷く。
「成長期の嬢ちゃんにはな、体つきが変わる度に剣の“重心”がズレるもんだ。違和感が出たら遠慮なく持って来な。すぐ調整してやる」
「ありがとうございます。大切にします!」
本当に嬉しそうだ。
剣が似合いすぎている。もはや職業:剣士。
■ メイヤの武器(?)
そして私に渡されたのは――
「……小刀?」
「短剣って言ってたけどな。どう見ても細工用だぞ、これ」
むしろ前世で使ってた工作ナイフに近い。
切れ味は良さそうだけど、戦う気ゼロ。
「うん、そもそも戦うつもりないし。工作系で十分!」
それと――ふと思い出した私は、追加で頼んでいた品を受け取る。
「お、これが“クナイ”と“マキビシ”ってやつだな」
袋に入った棘状の金属。
そして棒の両端が尖った、聞けば聞くほど物騒な武器。
親方がマキビシを見てぽんと手を叩いた。
「これは使い方わかる。逃げ道作る時用だな? まぁ常識の範囲だ」
……常識ではないと思います。
しかし親方はクイナを見つめて眉をひそめた。
「で……こっちは何に使うんだ? 見たことも無い形だぞ」
「あ、これ? こうやってね……」
前世で得た知識を元に、使い方を実演してみせる。
遊び道具にも武具にもなる、あのシンプルな道具。
親方は目をまんまるにした。
「ほぅ~~~……なるほどなぁ……! 発想が面白ぇ!
――ってかおちび!」
「ん?」
「こういう変わったもん扱う時は、ちゃんと世界商品登録機構に登録しとけよ!じゃねぇと……俺が“妙な武器作った親方”って疑われちまうだろうが!」
「だよね~……わかった、登録しとく!」
思えば、最近登録しに行くことが増えている気がする。
それはそれで困る。
■ 帰り道、そしてのんびりタイム
武器を受け取った帰り道。
夕暮れの橙が石畳に落ち、リディアの剣の鞘がほんのり光る。
「メイヤ、本当に戦う気ないの?」
「ないよ。守ってもらう側だし。私が戦うより、逃げ道作る方が向いてるし」
「うんうん! ミュネはメイヤ守る!」
ミュネが元気よく胸を張る。
私は笑って、袋から一本だけクイナを取り出し、くるりと回してミュネに見せる。
「これ一個渡しとくね。いざという時の道具。あ、これは王都までの帰り道の検証用だけど」
ミュネは目を輝かせて受け取る。
家に帰り着けば、ようやくホッとできる時間。
私はコートを脱ぎ、椅子に倒れ込む。
「……あー。疲れた。今日はのんびりタイムにしよ」
武器屋からの帰り道も、家の雰囲気も、全部いつも通り。
――けれどその頃、王宮では。
私たち三人がのほほんとしている裏で、
大臣たちが慌てふためき、国王が渋面で書類を読み……
国の基準を変えるかどうかで激論が始まっていた。
そんなことなど露知らず――
私はクッションに顔を埋めてぐでーっと伸びていた。
「……ふわぁ。マキビシ、まだ危ないから箱に入れとこ」
平和だ。
私だけものすごく平和だ。




