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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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回り始めた日常の中で

朝から領都は賑やかだった。

工事の音、行き交う人の声、馬車の往復。


「……今日も平和ねぇ」


そう呟きながら、私は執務室の窓から外を眺めていた。

氷室の工事現場では学術員さん達が図面を片手に話し合い、少し離れた場所では養殖池の整備が進んでいる。


「メイヤ様!本日の予定ですが!」


ミュネが元気よく入ってくる。


「えーっと……午前は燻製の試作結果のまとめ、午後は氷室の場所最終確認、その後に石鹸の改良案……だったかしら?」


「はい!その後、浴場から追加要望も来てます!」


「……増えたわねぇ」


嫌そうに言いつつ、声はどこか楽しそうだった。



試作小屋では、燻製にされたニジニジ魚が並んでいる。木の種類ごとに札が立てられていて、香りも色も微妙に違う。


「これは……匂いが強すぎますね」


「こっちは酒好きには刺さりそうです」


「兵站向きはこの辺りでしょうか」


皆が勝手に評価を始めているのを見て、私は一歩下がる。


「……もう私、居なくても回るんじゃない?」


そう言うと、全員が一斉にこちらを見た。


「それはそれ、これはこれです!」


「最初に言い出したのはメイヤ様ですから!」


「責任者は責任者です!」


「……はいはい」


苦笑しながら、私は一切れだけ試食する。

程よい塩味と、ほんのり残る香り。


「……これ、美味しいわね」


その一言で、場が一気に和んだ。



午後は氷室の建設予定地へ。

地面に杭が打たれ、既に掘削が始まっている。


「地下三層構造で、保冷効果を高めます」


「雪の運び入れは冬季集中ですね」


「管理人は常駐させます」


……うん。完全にプロの会話だ。


「何か修正点は?」


と聞かれて、私は少し考えた。


「……使う人が迷わない導線だけ、お願い」


それだけ言うと、学術員さんは深く頷いた。



夕方。

仕事を終えて、大衆浴場へ。


「メイヤ様〜! 新しい石鹸です〜!」


渡された石鹸は、ほのかに甘い香りがした。


「……うん、前よりずっと良い」


湯船に浸かりながら、天井を見上げる。


政治も、争いも、今は遠い。

ただ、今日も一日、領地はちゃんと回った。


「……こういう日が続けば良いのにね」


湯気の向こうで、誰かの笑い声が聞こえた。


世界は静かに、でも確実に動いている。

その中心にいる自覚を、私はまだ、少しだけ持て余していた。

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