燻る評価、広がる用途
「よーし!今日は皆んなで試食会よ!」
広場に即席の長机が並べられ、そこには種類ごとに分けられたニジニジ魚の燻製が置かれていた。
木の種類、燻し時間、塩の量。それぞれ微妙に違う。
「年齢問わず!子供から大人まで食べてちょうだい!正直な感想でね!」
最初はおずおずと手を伸ばしていた人達も、一口食べると表情が変わる。
「……おお」
「これ、思ったより柔らかい」
「香りが良いな」
年配が頷きながら言った。
「これなら保存食として兵站に使えるな。干し肉より食べやすい」
「確かに!」と、隣の若者が続く。
「腹持ちもいいし、塩辛すぎないのが助かる」
一方、少し濃い目に仕上げた一皿を前に、商人風の男が笑った。
「こっちは酒と合うなぁ……いや、危ない。飲み過ぎるやつだ」
「これは大人向けね」と私もメモを取る。
しかし――
「うっ」
「ちょっと匂いが強いかも……」
子供とその母親が顔をしかめる。
「家の中だと苦情が出そうねぇ」
「換気しないと駄目だな」
なるほど、燻し過ぎはダメ、と。
評価はその場で札に書いて回収し、結果は一目瞭然だった。
・香り控えめで万人向け
・酒の肴向けの濃厚タイプ
・保存性重視の硬め仕上げ
「上位、三種類ね」
私は満足そうに頷いた。
「この三つを商品化しましょう。用途別で売り分ければいいわ」
ざわっと周囲が湧く。
「魚がこんな形で売り物になるとはな」
「しかも長持ちする」
燻製の煙は、いつの間にか領地の新しい産業の匂いになっていた。
「――さて」
私は小さく笑う。
「次は量産体制、ね」
試作から実用へ。
また一つ、この領地の日常が形を変えて広がり始めていた。
「とはいえ……」
私は帳面を閉じながら、少しだけ現実に引き戻された。
「ここからは、まだ予定段階ね」
燻製は評判も良く、方向性も見えた。
けれど、今はまだ川から“分けてもらっている”状態に過ぎない。
「お魚さんがちゃんと養殖化できて、安定してから……かな」
側近も頷く。
「今は自然任せですからな。獲り過ぎれば元も子もありません」
「そうそう」
作業小屋を建てて、燻製専用の設備を置いて、人を常駐させる――
それは確実に“事業”として回るようになってからでいい。
「今は試作と経験値稼ぎね」
川の恵みに感謝しつつ、無理はしない。
この領地がここまで来られたのも、その積み重ねだった。
「焦らない、焦らない」
私はそう呟きながら、まだ薄く燻り続ける煙を見上げた。
――いずれ、この煙が日常になる日を思い描きながら。




