歯車は噛み合い、港は息を吹き返す
王都では今、静かだが確実な変化が起きていた。
アステリアの元に三家の男爵が付き、それぞれの得意分野を軸に、歯車が噛み合い始めていたのだ。
木材。
農業。
畜産。
どれも単体では、王都を立て直す決定打にはなり得なかった。
だが、三つが同時に、同じ方向へ動き出すと話は別だ。
そこへ、さらに加速をかけたのが――
新型船だった。
大型ではないが、小回りが利き、浅い港にも入りやすい船。
アステリアはその船を導入し、三領それぞれの港の整備を進めさせていた。
「全部を一気に直す必要はない。まずは“使える港”を増やす」
その方針のもと、最低限の桟橋整備、荷役の導線、簡易的な倉庫。
それらが順番に整えられていく。
そして、港整備に必要な備品――
クレーン部材、金具、補強材、工具類。
それらは例外なく、フェルナード領へ発注されていた。
結果としてどうなったか。
フェルナード領の工房はフル稼働。
職人の手は止まらず、材料の出入りも増えた。
さらに、三家の領地でも――港を中心に人が集まり、荷が動き、金が回り始める。
「最近、仕事が増えたな」
そんな声が、王都近郊だけでなく、各領地からも聞こえ始めていた。
まだ派手な復興ではない。
だが確実に、絡んでいる領地すべてが、好景気の兆しに包まれつつあった。
その中心にいるのは、大声で号令をかける支配者ではない。
ただ淡々と、必要な物を、必要な場所へ流し、歯車を一つずつ噛み合わせていく――
アステリアという存在だった。
エドランは、久しぶりに頭を抱えていた。
王都の港は、想定以上の速度で息を吹き返しつつある。壊れた桟橋は補強され、使えなかった岸壁には船が戻り始めていた。
ここが完全に稼働すれば――
物流は安定し、王都の経済基盤は一段階、確実に強くなる。
それ自体は、喜ぶべきことだ。
実際、商人達の動きも悪くない。
アステリアは物資を独占するでもなく、特定の商会だけを優遇するでもない。
必要な物を、必要な分だけ流し、価格も無理に歪めない。
だから商人達は自然とまとまり、自発的に動いていた。
「……やり方が上手すぎる」
エドランは、そう認めざるを得なかった。
問題は、そこではない。
――貴族共だ。
何もしていない。
汗もかいていない。
港の瓦礫一つ運んでいない。
それなのに、「利益はまだか」「儲け話はないのか」「我が家にも回すべきではないか」
そんな声だけは、一丁前に上げてくる。
ある意味で――
反乱を起こした貴族達の方が、今となっては分かりやすかった。
敵だと、はっきりしていたからだ。
排除し、処理し、後始末をすれば済んだ。
だが、今残っている連中は違う。
表では忠誠を語り、裏では利益だけを嗅ぎ回る。足を引っ張るほど露骨ではないが、支える気もない。
「……さて」
エドランは、指でこめかみを押さえた。
この“何もしない貴族”達を、どう扱うべきか。
切るのか。使うのか。
それとも動かざるを得ない状況に追い込むのか。
港は復旧しつつある。経済も回り始めている。
だが、その先に待つ最大の厄介事は、
どうやら――人間そのものらしかった。




