雪を閉じ込める知恵
お魚養殖化計画は、実務は学術員さん達に任せておいて。私は私で、次の事を考える。
「レシピでも考えておくか……保存を考えるなら、やっぱり燻製が無難よね」
干物も悪くないけど、天候に左右されるし。
燻製なら保存も利くし、味も良くなる。
「んー……保存か……」
ふと考えて、ため息が出る。
「冷蔵庫欲しいけど……流石に仕組みが分からんわー」
圧縮して冷やして、気化熱がどうとか……
理屈は聞いた事あるけど、作れる気がしない。
「そう考えると、昔の人って凄いわよね……」
そこで、ぽんっと一つ、記憶が弾けた。
「……氷室!」
そうだ。
私の記憶の中にも、毎年雪が積もっていた頃の光景がある。
「雪を洞窟とか地下に詰めておけば……夏でもひんやり出来るはずよね?」
大量の雪を詰めて、藁で覆って、空気を遮断して――それだけで、夏まで氷が残る。
「何ヶ所か作りたいなぁ……」
魚だけじゃない。
肉も、野菜も、保存が一気に楽になる。
「でも、どう説明すれば分かりやすいかしら……?」
夏でも雪が残ってる、って言ってもピンと来ない人は多そうだ。
「……いや」
少し考えて、頷く。
「今の季節でも、井戸水より冷えた飲み物が飲める、って言った方が分かりやすいわね」
体感で分かる説明。それなら納得して貰える。
「よし。図を描いて説明しよ」
また一つ、領地に増えるものが決まった。
雪を閉じ込める、昔ながらの知恵――氷室だ。
いつの間にか、領内の乳牛も随分と増えていた。
「そう言えば……」
頭の中で、ふと甘い記憶がよぎる。
「アイスクリームも作れるんじゃね?」
牛乳、砂糖、攪拌。作り方自体は知っている。……知ってはいるけど。
「でも、その為には低い温度が必要なのよね」
ただ冷たいだけじゃ駄目。凍る一歩手前、むしろ凍らせながら混ぜ続ける温度。
「なるほど……」
氷室の構想と、頭の中で線が繋がる。
「雪と氷があれば……出来る、か?」
氷室から氷を取り出して、塩を混ぜて温度を下げて。その中で容器を回し続ければ――理屈の上では、可能。
「……子供達、喜ぶだろうなぁ」
大衆浴場でさっぱりした後に、冷たい甘味。
想像しただけで、ちょっと口元が緩む。
「よし」
まずは氷室。その次に、保存食。
その“ついで”に、アイスクリーム。
「ついで、だよ?ついで」
誰に言い訳するでもなく、私は一人で頷いた。
こうしてまた一つ、この世界には無かったはずの「当たり前」が、少しずつ増えていくのだった。




