試験運用はいつものこと
学術員さんの話では、人工孵化や養殖方法についての登録は、すでに機構に存在しているらしい。確かに……私も、そんな話をどこかで聞いた覚えがある。
養殖方法は、池をいくつも作って段階的に育てるやり方。まあ、これは正直、想像の範囲内ね。
ただ、学術員さんの提案は、少し踏み込んでいた。
「川ごと、養殖場にしてはどうでしょうか」
さらに、人工孵化用として“擬似川”を造る案まで出てきた。
――うん。考えるの、面倒。
というわけで、そのままお母様に丸投げした。
学術員さん自身も、実際に魚を育てた経験はないらしく、完全に手探り。だから、機構にお金を払って、さらに詳しい資料を取り寄せることになった。
「まあ……まだ試験段階ね」
こういうのは、いつものことだ。
最初から完璧なんて、期待していない。
ただ――
「お魚は一匹、拝借していこうかしら」
せっかくなら、味の確認もしないと。
「ムニエルでも作りましょう」
それに、お母様にも試食してもらわないと、後々うるさそうだし。
「“美味しい”って言わせておけば、予算も通りやすいしね」
そう考えながら、私は魚の入った籠を見下ろした。
さて――この魚も、この領地の“新しい名物”になるのかしらね。
「お魚養殖化計画は、これで丸投げ出来たかな?」
メイヤは一息つき、肩をぐっと回した。
「さーて。お風呂でも入りに行きますか〜」
――楽ばっか?
いやいや。今日は遊びじゃない。
「今日は新開発の石鹸の試しを、仕方なく、ね?」
そう言いながら手に取ったのは、白く整えられた石鹸だった。
「香りは……うん。前より大分良くなったわね」
鼻先に近づけ、軽く息を吸う。
「これなら有りだなぁ。最初のやつは正直、洗剤感強すぎだったし」
手を濡らし、泡立ててみる。
「……おっ」
泡はきめ細かく、すぐに広がった。
「うんうん。いい!泡切れも悪くないし、変な油残りもない」
指先を確かめながら、満足そうに頷く。
「これもお母様に使って貰わんとね」
そう呟いて、メイヤは浴場の湯気の向こうへと歩いて行った。
次々と生まれる“新しい日常”を、試すために。




