合流そして共有される危機感
「そしたら――貴女方二人はここに残りなさい」
畜産男爵は、連れてきた側近二人を見渡して告げた。
「私は一度、王都へ戻るわ。その後、領内からまた数名、人を選んでここへ送り込む」
二人の顔を順に見て、続ける。
「畜産関係の情報はこちらから提供する。その代わり――ここで学べるものは全部学びなさい。遠慮はいらないわ。見て、聞いて、触って、全部よ」
「……解りました」
短く返事をした二人の表情には、緊張と、それ以上の高揚が浮かんでいた。
この領地が、常識の外にあるという事を、既に理解している証だった。
「後は任せたわ。くれぐれも勝手な判断はしないで。でも、遠慮もしない事」
そう言い残し、畜産男爵は踵を返した。
港へ向かうと、ちょうど一隻の船が接岸したところだった。見覚えのある船影に、畜産男爵は目を細める。
「……あら」
甲板から降りて来たのは、木材男爵と農業男爵だった。
互いに顔を見て、ほんの一瞬、言葉を失う。
「偶然ね」
「本当だな」
軽く挨拶を交わした後、畜産男爵は二人の肩を掴み、低い声で言った。
「――ここは、やばいわよ」
「は?」
農業男爵が、思わず間の抜けた声を出す。
「冗談じゃないわ。技術、物流、生活水準、考え方……全部が一段、いえ二段は上よ」
木材男爵は、何かを察したように眉をひそめた。
「……そんなにか」
「そんなに、どころじゃない」
畜産男爵は港の奥を見た。蒸気を吐きながら動く船、人の流れ、規則正しい荷役。
「私は一度、王都に戻るわ。この視察が終わったら……三人で必ず話しましょう」
「何を、だ?」
「決まってるでしょ」
畜産男爵は、静かに言い切った。
「これから、どう生き残るかをよ」
そう言い残し、畜産男爵は王都行きの船へと向かった。
残された二人は、無言のまま同じ景色を見つめる。
この領地は――もはや「貧乏領」などと呼べる場所ではなかった。
最初は「何を言ってるの?」と、本気で思ったわ。貧乏領?視察?時間の無駄じゃないかって。でも――来て大正解。
紫石。
確かに、これは伸びる。伸びない訳がない。
「燃料」「動力」「輸送」
そのどれもが、これまで人手と時間に縛られていた分野だ。それを一気に変える力が、あの紫色の石にはある。
私の領地でも、正直に言えば喉から手が出るほど欲しい。いや、うちだけじゃない。
王都が本気で気づいたら?他の領地が技術と結びつけたら?
――間違いなく争奪戦になる。
それに、皮肉なものね。
紫石が採れる土地は、作物の育ちが悪く、地盤も弱い。今までは「外れ地」「使えない山」と言われてきた場所。
それが宝になる。いや、もう既に宝なのよ。
価値に気づいた者だけが、先に進める宝。
「ふふふ……」
思わず、笑みが零れた。
この話、三人で共有しない手はないわね。
今度集まる時は――
もう“視察の感想”なんて段階じゃ、済まなくなりそうだわ。




