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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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静かな食卓と貼り紙の領主館

「お食事の用意が出来ました〜!」


明るい声と共に現れたのはミュネだった。


「あら、ありがとう」


「こちらです〜!」


案内された食卓には、見慣れた料理と、もう一つ――

この領地でよく食べられているという料理が並んでいた。


見た目は……普通ね。


畜産男爵は、少し首を傾げながら皿を見下ろす。


「この白いつぶつぶ? これは何かしら?」


「えっと〜、八十八穀です〜!」


「……八十八穀?」


聞き慣れない言葉だった。


試しに一口。――ぱく。


「……っ!?」


思わず目を見開く。


「美味しい!!」


派手な香りも無ければ、見た目も質素。

だが噛むほどに広がる甘みと、他の料理を邪魔しない存在感。


「見た目は普通なのに……何じゃこのうまさ!?」


周囲を見ると、側近たちも同じ反応だった。


「これは……」「止まらん……」


静かに、だが確実に箸が進んでいる。


食事の質が、全体的に高い……?


量で誤魔化すのではなく、日常の満足度を底上げする料理。それがこの領地の“普通”なのだと、嫌でも伝わってくる。


「ところで」


畜産男爵はふと周囲を見回した。


「ここの領主様や、ご家族は?」


「あー……」


ミュネは少し笑って答える。


「皆んな忙しくて、食事はバラバラな事が多いです〜」


「そうなのね。じゃあ、相談事や打ち合わせは?」


「お仕事の事はですね〜」


ミュネは壁の方を指差した。


「あの板に、メモを貼って情報交換してます〜!」


そこには大きな板があり、紙片がいくつも貼られていた。簡潔な指示、進捗、確認事項――一目で分かるよう整理されている。


「……へぇ」


畜産男爵は感心したように息を吐く。


「変わったやり方ね……」


だが、すぐに気づく。


でも……


皆が揃う時間を無理に作らない。誰かを待つ必要もない。その分、余計な時間を使わずに済む。


「……合理的、なのか?」


食卓は静かだが、どこか満たされている。

派手さはないが、無駄がない。

畜産男爵は、この領地の“強さ”が、戦や財力だけではない事を、また一つ理解した気がしていた。



「美味しかったわ!!ありがとうね!」


畜産男爵が素直にそう言うと、ミュネはにこっと笑った。


「いえいえ〜!この後はデザートとお茶です〜」


運ばれてきたのは、白くてふわふわした甘味。


これは……さっき店で買ったやつに入ってた白いの?


一口。


「……っ!!」


「う!砂糖たっぷり!!何じゃこりゃ〜!!」


思わず声が裏返る。


「ふふふ。お口に合って嬉しいわ」


セリアがくすっと笑いながら声をかけた。


「素晴らしいです……」


側近の一人が、しみじみと呟く。


「それに、本日は領内を色々と見せて頂き、誠にありがとうございました」


丁寧に頭を下げる。


「いえいえ〜。好きなだけ見て行っていいのよ?」


しかし畜産男爵は、少し間を置いてから言った。


「……いえ。我々は、明日にでも王都へ戻ろうかと……」


「……あら?」


セリアが、ほんの少し首を傾げる。


「たった一つ商談して、もう帰るの?」


「え?」


空気が、わずかに変わった。


セリアは視線をずらし、同行している側近たちを一人ずつ見ていく。


「まあ、用があるなら仕方ないけど」


そう前置きしてから、柔らかい声で続けた。


「そちらのお二人さん。若い女性と男性のお二人さん」


突然名指しされ、二人が背筋を伸ばす。


「お二人は、この地に残って、もう少し技術を吸収してから戻りなさい」


「……はい?」


「私達も畜産について聞きたい事が沢山あるし」


逃げ道の無い、穏やかな断定。さらに視線は年嵩の側近へ向く。


「お年を召した男性の方は、領主様にしっかり付いていなさい」


「……は、はい」


もはや相談ではない。


「それに」


セリアはお茶を一口飲み、淡々と付け加える。


「必要なら、もっと人をこちらに寄越しても構わないわよ」


――完全に主導権を握られている。


畜産男爵は、デザートの甘さとは別の意味で、喉が鳴るのを感じた。


……この人。


押し付けがましくもない。威圧的でもない。

それなのに、気づけば道筋が決められている。


やっぱり……


ここは、“貧乏領”などではない。


学ぶ側が、自然と腰を据えさせられる場所。

そんな領地なのだと、畜産男爵は改めて理解していた。

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