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「私からの考えを話すわ!」
畜産男爵は馬車の中で、はっきりと言い切った。
側近達が姿勢を正す。
「先ずは――あの馬車よ。乗用じゃなくて、荷馬車の方ね」
「はい」
「正直、あれが有るか無いかで、うちの領地の物流は別物になるわ」
畜産男爵は指を一本立てる。
「そこで、最初の提案!うちからは、農業用肥料と畜産品。それと交換出来ないか、話をしてみる」
側近達が小さく頷く。
「糞尿は向こうが欲しがっている。家畜はまだ弱い。……理屈は通りますな。相手が乗って来る可能性は高いかと」
「ただ――」
別の側近が慎重に付け加える。
「相手が、“それ以上の価値”を見ている場合もあります」
畜産男爵は肩をすくめた。
「その時は普通に買うわ」
「……即断ですな」
「だって欲しいものは欲しいもの」
そして淡々と数字を出す。
「最低でも、四十台から五十台」
「……!」
側近達の目が見開かれる。
「かなりの数ですが……」
「最低よ?」
「輸送の要になるものだもの。中途半端に導入しても意味が無い」
側近達は顔を見合わせ、やがて深く頷いた。
「理に適っています」
「長距離輸送を考えるなら、それでも足りないくらいですな」
畜産男爵は不敵に笑った。
「でしょう?出来れば蒸気機関車ってのも欲しいけど。。」
馬車の窓から領都の方角を見る。
「交渉してみましょうか!」
その言葉に、側近達も静かに気合を入れた。
この交渉が、両領地の関係を大きく変える。そんな予感が、全員にあった。
「へ?」
「ん?」
「……良いのですか?」
畜産男爵は、思わず聞き返していた。
あまりにも反応が軽すぎたからだ。
「肥料と家畜。代わりに荷馬車でしょ?」
あっさりと、確認するような口調のセリア。
「ええ……まあ、そうですが……」
「条件としては悪くないわよ?」
さらりと返される。
畜産男爵は一瞬、側近を見る。側近もまた、わずかに首を傾げていた。
「でもね」
セリアは指を一本立てた。
「荷馬車は造るのに時間が掛かるの。だから、いっぺんに全部は無理よ?」
「……え?」
「順次、出来た分から引き渡す形になるわ」
「……そ、そうですか……」
拍子抜けするほど素直な条件だった。
「それで問題無ければ進めましょう」
「え……あ、はい。解りました……」
畜産男爵は、思わず返事をしていた。
――交渉は、呆気なく終わってしまった。
もっと駆け引きがあるものだと思っていた。
もっと値を釣り上げられる覚悟もしていた。
だが現実は、「それでいいなら、いいわよ」
という一言で済んだ。
「……」
畜産男爵はしばらく黙り込んでいた。
「領主様……」
側近が恐る恐る声を掛ける。
「……何?」
「これ、本当に……」
「ええ」
畜産男爵は、静かに笑った。
「この領地、私達が思ってるよりずっと――
先を行ってるわね」
その一言が、今回の視察の結論を、何より雄弁に物語っていた。




