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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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脅威を価値に変える視線

「……皆んな、どう思う?」


畜産男爵の問いに、馬車の中の空気が引き締まる。最初に口を開いたのは、年嵩の側近だった。


「正直に申し上げますと……画期的、の一言です」


「機械そのものもですが、それを“使い続け、改良し続ける”という考え方」


「この領地は……脅威的です」


「そう」


畜産男爵は小さく息を吐く。


「敵に回さない方が良い、それくらいは私にも解るわ」


視線を落とし、ゆっくりと続ける。


「……もし、あの蒸気機関がうちの領内に有ったら、何が出来る?」


一瞬の間。


「はい」


若い側近が前に出た。


「広範囲に点在する畜産小屋へ、餌を人手を掛けずに輸送出来ます」


「荷運びの人員を減らし、その分を管理や品質に回せます」


「……そうよね」


畜産男爵は頷いた。


「それ以外にも」


彼女は窓の外を指差す。


「ここの馬車を使えば、かなりの量が運べそうだし、台数も減らせますね」


「はい」


別の側近が即答する。


「この馬車は驚異的です。振動が少なく、速度も安定している」


「長距離移動でも荷崩れや家畜への負担が大幅に減ります」


「……」


畜産男爵はしばらく考え込み、やがて決断したように口を開いた。


「……まずは、この馬車を購入したいわね」


側近達の表情が引き締まる。


「出来れば……」


少しだけ声を落とす。


「あの蒸気機関車……だったかしら?」


「それも買えれば、長距離輸送が一気に現実になる」


「はい」


「畜産の規模が、一段階……いえ、二段階は変わるかと」


畜産男爵は、静かに笑った。


「やっぱり、来て正解だったわ」


馬車は音もなく進み続ける。


彼女の中で、“脅威”だったこの領地は、既に“欲しい未来”へと変わっていた。


「……待って」


畜産男爵は馬車を止めさせた。


「ここの畜産場も見に行きましょう」


側近達が顔を見合わせる。


「我領と、何か違いがあるかも知れないわ」


「ですな」


しばらく進み、案内された先を見て――

畜産男爵は思わず眉を上げた。


「……え?ここ?」


規模は異常に小さいし、真新しい牛舎。

整然とはしているが、数は明らかに少ない。


「少し、私が話を聞いてまいります」


年嵩の側近が一礼し、管理者の元へ向かう。


しばらくして戻って来た。


「何か解った?」


「ええ」


側近は整理する様に語り始める。


「まず、ピヨピヨですが……大分前から繁殖はしていた様で、つい最近になって卵と肉の供給が始まったとの事です」


「最近?」


「はい。まだ安定供給には至っていません」


「豚も同様で、現在は繁殖段階」


畜産男爵は腕を組む。


「それに……」


側近は続けた。


「我が領で育てていた肉牛、乳牛、山羊が居ました」


「……何ですって?」


「管理しているのは、最近の領民募集でこちらに移り住んだ者達です」


「家畜を飼っていた経験を買われ、任されている様ですな」


畜産男爵は静かに頷いた。


「……となると」


視線を畜舎全体に向ける。


「ここは、まだ畜産が弱い……って事か」


「その様です」


側近は即答した。


「しかも、生産したものは領内で回す分のみ。まあまだ回ってませんが。。外へ売る余裕は無い様です」


「へぇ……」


畜産男爵は意外そうに鼻を鳴らした。


「それが……」


側近は少し言いづらそうに続ける。


「こちらでは、糞尿を“欲しがっている”様です」


「……ん?」


「肥料として使いたいと」


畜産男爵は一瞬黙り込み、そして小さく笑った。


「なるほど……」


「畜産が弱い代わりに農地が強い。だから肥料が足りない」


側近も頷く。


「その様です」


畜産男爵は、この領地を“脅威”ではなく、

“噛み合う相手”として見始めていた。


「……面白いわね」


「本当に」


この貧乏領地は、不足を抱えながらも、確実に“伸びる形”をしていた。

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