完成の先を見る者たち
カン!カン!カン!
乾いた金属音が腹に響く。
「……ここが鉄工場か」
畜産男爵は周囲を見渡した。
木材工場とは違う、熱と油と鉄の匂い。
「確かに……蒸気機関ってのが、あるわね」
堂々と据えられた鉄の塊。
配管、圧力釜、回転軸――すでに“機械”として成立している。
「たのもー!!」
声を張り上げると、中から顔を出した男が一瞬目を細めた。
「おっ……メイ……じゃなかった」
「えー?誰だ?」
畜産男爵は無言で手形を差し出す。
「あー、はいはい。視察ね」
男はあっさり頷いた。
「じゃあ好きに見ていけ!黄色い線は越えるなよ!念の為、ヘルメット被れ!後ろの奴らもな!」
ぞんざいだが、扱いは平等だった。
「……どう?」
畜産男爵は側近に視線を投げる。
「仕組みは理解出来る?」
「先程の工場の方にも話を聞きましたが……」
側近は慎重に言葉を選ぶ。
「理屈としては理解出来ました。ただ……」
「納得は出来ない感じかしら?」
「はい」
別の側近が続ける。
「この精密さ、この加工精度……これを“領地で造れる”というのが……」
「うーむ……」
畜産男爵は蒸気機関を見つめる。
「ねえ、この蒸気機関って……これで全部?」
男は肩をすくめた。
「全部って言うか……今は“試験開発”って感じかな?」
「……開発?」
畜産男爵は思わず声を上げた。
「もう出来てるじゃない!」
男は苦笑した。
「いやいや。メイヤちゃんから目標出されててさ」
「目標?」
「同じ燃料の量で、一番多く水蒸気を出す方法、とか」
「……」
「圧力の逃がし方とか、熱の回し方とか……その辺を今、試してる最中」
沈黙が落ちる。
「……そう」
畜産男爵の視線が、ゆっくりと機械をなぞる。
「これは……」
「どうした?」
男が首を傾げる。
「普通なら」
畜産男爵は、噛みしめるように言った。
「完成したら“終わり”なのよ」
側近達も、黙って頷く。
「でもここでは……完成した“先”を見てる」
ふっと、畜産男爵は笑った。
「更に改良を目指す……素晴らしい発想ね」
男は一瞬、照れたように鼻を掻いた。
「そう言って貰えると、俺も嬉しいな」
「最初は正直、“何で?”って思ったけどさ」
「……でしょうね」
畜産男爵は蒸気の揺らぎを見つめながら、静かに確信する。
――この領地は、“出来た”で止まらない。
そしてそれこそが、最も恐ろしく、最も強い。




