黄色い線の向こう側
「まず、何処へ行きます?」
側近の問いに、畜産男爵は即答した。
「決まってるわ。まず――さっき乗って来た、あの乗り物の所よ!」
四人は領都の端へ馬車を走らせた。
「……居ませんね」
「チッ……」
明らかに苛立ちを隠さず、畜産男爵は舌打ちする。
「なら次。近くの木材工場へ向かうわよ!」
「……聞こえる?」
「ええ……」
「しゅしゅ、って音が……」
木材工場の建屋が見えてくるにつれ、規則的な音がはっきりしてきた。
「木材工場で……この音?」
門の前で、畜産男爵は声を張り上げる。
「たのもー!!」
「えっ!?誰だ?」
中から、作業着姿の男が顔を出す。
「視察に来たわ!見せなさい!」
「へぇ……?」
男は首を傾げつつ、手形を見る。
「……まあ、手形あるならどーぞ。でも、黄色い線からは出るなよ!危険だ!!」
「ふふふ」
忠告を軽く流しつつ、畜産男爵は中へ進む。
「……これ」
「さっきの“しゅしゅ”で、刃を動かして……木を切ってる?」
巨大な刃が、一定の速度で上下し、丸太を次々と裁いていく。
「この“しゅしゅ”は何?」
「あー。蒸気機関ってやつだ」
「燃料は……紫石、ね」
「おっ。詳しいな」
畜産男爵は、機械を食い入る様に見つめた。
「動く仕組みを教えなさい」
「えっ!?」
作業員は頭を掻く。
「いや……動かし方は解るけどよ。正直、何で動くかは解らねーなぁ……」
「そう……?」
側近達へ視線を送る。
全員、小さく首を横に振った。
「……動く仕組みを知りたいならな」
作業員が、指で別の方向を示す。
「鉄工場に行った方がいい。あそこで、これ作ってるから」
畜産男爵の口元が、僅かに吊り上がる。
「ありがとう」
振り返り、短く命じた。
「――行くわよ」
黄色い線の向こう側にあるものが、この領地の“正体”だと、確信しながら。
馬車に揺られながら、畜産男爵は腕を組んだ。
「……さっきの“しゅしゅ”。蒸気機関って言ってたわね」
「そうですな」
側近の一人が頷く。
「名前から察するに、蒸気を利用した仕組みの様ですな?」
「私もそう思います」
別の側近が続く。
「火で水を沸かし、その蒸気の力で何かを押し動かしている……それを動力として使っている様です!」
畜産男爵は小さく息を吐いた。
「そうね……しかも、あの使い方」
馬車の窓から、遠ざかる工場を一瞥する。
「だいぶ前から使っていた感じがしたわ。
仮設でも試作でもない」
「確かに……」
「動きに無駄が無かったですな」
「丸太を、あの速さで加工してましたからね……」
「便利だと思います!」
「ええ、かなり」
畜産男爵は、静かに結論を口にする。
「――これは、見せ物じゃない」
側近達が息を呑む。
「この領地では、“当たり前の道具”として使われてる」
馬車は、次の目的地――鉄工場へと向かっていた。




