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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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迎え入れる側、迎えられる側

「……アステリアちゃんから、ね」


セリアは差し出された文を受け取り、静かに目を通した。


(ふふ……相変わらず、要点だけは外さない書き方)


文を畳み、顔を上げる。


「ごめんなさいね」


畜産男爵に向かって、柔らかく微笑んだ。


「今、主人が領内を回っていて不在なの。だから今回は、私が対応させてもらうわ」


「いえ……」


畜産男爵は一礼する。


「そうでしたか」


セリアは少し考え、すぐに決めたように続けた。


「なるほど。では――」


「しばらくこちらで寝泊まりしながら、食事もここで、どうかしら?部屋も用意するわよ」


「いえ!そこまでのお気遣いは……」


畜産男爵は慌てて首を振る。


「宿泊場で結構ですので」


一瞬の間。


セリアは、ほんのわずか困ったように笑った。


「……ごめんなさい」


「まだ、宿泊場が無いの」


「……」


(はぁ?)


畜産男爵の心の声が、表情の裏で弾けた。


(宿泊場が無い?やっぱり貧乏領地ね……)


だが、顔には出さない。


「……それでしたら」


一呼吸置いて。


「お言葉に甘えさせて頂きます」


「そう言ってもらえると助かるわ」


セリアは安堵したように頷く。


「それとね」


側に控えていた使用人に目配せしながら。


「荷馬車を一台回すわ。それを自由に使ってちょうだい」


「ありがとうございます」


「分からない事があれば、その場で相手に聞いて構わないわよ」


「……その場で?」


「ええ。視察なんて、現場で聞くのが一番だもの」


そう言って、セリアは一枚の手形を差し出した。


「これも持っていって」


「首から下げておけば、視察の方だって分かるから」


畜産男爵は、それを受け取り、目を落とす。


(……随分と、開けっ広げね)


(普通は、もっと囲うものじゃないの?)


「お気遣い、大変ありがとうございます」


形式的な礼を述べながらも、内心では別の評価が生まれていた。


――貧乏なのは確かかもしれない。

――でも、この余裕は……何?


セリアは、そんな視線に気づいた様子もなく、穏やかに微笑んでいた。


「遠慮はいらないわ」


「この領地は――」


「見て、触って、確かめてもらうのが一番だから」


早速、用意された馬車に四人は乗り込んだ。


手綱を取り、馬車は静かに動き出す。


「……皆んな、どう思う?」


畜産男爵が、ふと口を開いた。


「如何と言われましても……」


側近の一人が言葉を選ぶ。


「普通なら、この領地の者が立ち合う筈です。

それどころか……地図まで貸して頂けました」


「本来なら」


別の者が続ける。


「立ち合いと言って、見せたくない所は見せないものですし……」


「ええ」


三人目も頷いた。


「“自由に見ていけ”と言われるとは……正直、拍子抜けです」


畜産男爵は、腕を組んで小さく息を吐いた。


「そうね。私も同じ感想よ」


一瞬、馬車の揺れに身を預ける。


「……でも」


ふと、眉をひそめた。


「この馬車、乗り心地が良くない?」


「言われてみれば……」


「確かに、揺れが少ないですな」


「土の上とは思えません」


畜産男爵は、座席の縁に手を置き、足元へ視線を落とす。


「ん?」


「……何だ、この足回りは?」


通常の馬車より、衝撃が柔らかく伝わってくる。


ガタつきが、明らかに抑えられている。


「見た事のない構造です」


「軸の取り方も、少し違う様な……」


畜産男爵は、ゆっくりと口元を緩めた。


「……なるほど」


「表向きは、自由に見せてる様で」


「足元から、もう“普通じゃない”って事ね」


馬車は、静かに速度を上げていく。


その揺れの少なさが、これから見るもの全てが想定の外にあると、無言で告げている様だった。

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