甘い香りの正体
「この道を真っ直ぐ行って、突き当たりがそうよ!」
「へぇ……」
畜産男爵は辺りを見回し、素直に感心した声を漏らした。
「貧乏領地にしては、やけに整然と建物が立ち並んでるわね」
「一応、忠告しておいてあげるけど」
ナータは歩きながら、ちらりと横目で見る。
「ここの領地、甘く考えてると痛い目に遭うわよ?」
「あら」
畜産男爵は口元をつり上げる。
「貴女ほどの方が、そこまで言うの?」
「そうね。まあ……多分、伝わらないと思うけどね?」
「?」
その時だった。
「ん!?甘い香り……!?」
足が止まる。
「この店から?」
屋台の前には、人だかり。薄く焼かれた生地の上に、白い何かと果物が載せられている。
「……クレープ?」
「値段は……それ程高くないわね」
畜産男爵は一歩前に出た。
「ちょっと!お勧め一つ下さいな!」
「あいよー!お嬢ちゃん!」
差し出された包みを受け取り、早速一口。
「……!」
目を見開く。
「こんな食べ物、あるのね。どれどれ……甘ーい!」
中身を確かめるように、もう一口。
「甘い白いもんと果物が入ってるわね。悪くない……って言うか、めちゃ美味いわよこれ!」
その横で、別の香りが鼻をくすぐった。
「クンクン……これは……油の香り?」
揚げ物の屋台。
「でも獣独特の油じゃない……?」
「カットゴロゴロ芋揚げだよー!」
「これを一つ」
「塩か?ケチャップか?」
「ケチャップ???」
一瞬考え、即決。
「じゃあ、ケチャップ!」
受け取った瞬間。
「うおっ、熱っ!」
だが、すぐに頬が緩む。
「でも……芋を何かの油で揚げたものね。癖がなくて美味しい」
赤いソースをつけて、再び一口。
「この赤いのがケチャップって奴かしら?
旨みと酸味が絶妙……芋を完全に底上げしてるわね」
さらに隣の屋台へ。
「これは……白スープ?白?」
首を傾げる。
「スープって事は……飲み物か?」
「これ一杯下さいな!」
「はーい!熱いから気をつけてね!」
恐る恐る口をつける。
「……ん〜」
ゆっくりと息を吐く。
「見た目は白くて驚いたけど……奥が深い味ね……」
気づけば、屋台を一軒、また一軒。
「次は……」
その背後から、鋭い声。
「ちょっと!!」
「……あんた!!」
「買い食いばかりしてないで!!」
「はっ……!!」
畜産男爵は、はっと我に返り、口元を拭った。
――まずい。
――ここ、食べ物までおかしい。
ナータは呆れた顔で、しかしどこか楽しそうにため息をついた。
「だから言ったでしょ?」
「この領地、油断すると……」
「色んな意味で、飲み込まれるわよ?」




