表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

311/373

浮かぶ港と予期せぬ再会

「……本当に、もう着いたわ……」


畜産男爵は呆然と呟いた。体感では、まだ半分も来ていない感覚だというのに、船はすでに目的地へと滑り込んでいる。


「これは……」


視界に入った光景に言葉が途切れた。


「港……よね?でも、変わった作りね……?」


岸壁らしきものが、どこか不自然だ。石で固められている様子もなく、海面と一体化しているようにも見える。


「さて!皆!降りるわよ!」


「「「はい!」」」


一行が船縁へと集まった、その時だった。


「……ん?」


足元を覗き込み、畜産男爵は目を細める。


「……港が……浮いている?」


「何、これ……?」


同行していた技術者が、驚きを隠さずに口を開く。


「如何やら、浮力のある構造物の上に板を敷いて、港代わりにしている様ですな。これなら埋め立てをせずとも、大型船が直接横付け出来る……」


「……」


畜産男爵の脳裏に、自領の遠浅の海がよぎる。


「……これ、うちの領地にあれば……」


言葉は、そこで途切れた。


「はーい!領都方面に行く方〜!早くお乗り下さーい!!」


間延びした、しかしやけに元気な声が響く。


「……ちょっと。これに乗ればいいの?」


「はーい!初めてですか……?」


声の主が顔を上げ――次の瞬間、目を丸くした。


「あれ?貴女……畜産男爵!?」


「その名で呼ぶな……え?」


畜産男爵も相手の顔を凝視する。


「……ナータ様??何で、ここに!?」


「あはは!お久しぶりね!学園以来かしら?

それで、何しに来たの?」


「ちょっと待ちなさいよ!」


畜産男爵は一歩詰め寄る。


「何で伯爵の娘が、こんな貧乏領地で何してるのよ!?」


「んー……色々あった上になり行きで???」


あっけらかんとした返事。


「……しかも、その綺麗だった長い髪!そんな短くして如何したのよ!?」


「まあ、それも色々??それより、早く乗りなさいよ!」


ナータは腕を引っ張る。


「定時出発に遅れちゃうじゃないのよ!」


「ここに座ればいいのね……?しかしこれ……」


畜産男爵が腰を下ろした、その瞬間。


「プシューーーー……!シュシュッ!」


「うわっ!?」


足元が震え、景色が動き出す。


「動いた!?ちょっと、あんたが動かしてるの!?」


「お客様!動くと危ないので、お座り下さーい!!」


「こら!人の話、聞きなさいよ!!」


「しゅ、しゅ、しゅ……」


蒸気音を立てながら、乗り物は軽快に走り出す。


畜産男爵は、揺れる視界の中で確信していた。


――ここは、ただの貧乏領地じゃない。


そしてこの視察は、想像以上に厄介で、面白い旅になると。



「領都近く〜! 領都近く〜! お荷物お忘れなく〜!」


「けっ……景色が速く流れていく……目が回る……」


畜産男爵は思わず座席の縁を掴んだ。


「ちょっと?大丈夫?」


「こっ……これぐらい平気よ!でも何でそんな男性みたいな格好で!」


ナータは自分の服装を見下ろして、肩をすくめる。


「ここの奥様が作ってくれたの!運転士専用って!!」


「……あんた!ヒラヒラした格好が好きだったじゃない!!」


「んーー。まあ、如何でもいいや!そんなの!」


軽く笑い飛ばしてから、畜産男爵は視線を向け直す。


「それより……貴女、何でここに?」


「し、視察よ!」


少しだけ言葉が詰まる。


「あの……名前、なんだっけ?」


「『アステリア・ロウル様!』です」


技術者が話す。


「その人から言われたの。ここをよく見て、観察して来いって!」


「あー……成る程ね……」


畜産男爵は、先ほどから見てきた異様な光景――

帆の無い船、浮かぶ港、蒸気で走る乗り物――を思い返す。


「それなら……」


ナータがにっと笑う。


「領主館まで案内するわよ!今日は、もう仕事終わりだから!」


「……仕事?」


畜産男爵は、眉をひそめた。


「仕事って……何の?」


「運転士よ?」


「……は?」


「この路線のね!」


「……」


畜産男爵は、ナータを上から下まで改めて見た。


「……伯爵家の娘が?」


「そうね。肩書は?」


ナータはあっさり言う。


「今はここでは1人の人間。それに――」


ナータは前を見据えた。


「ここじゃ、身分より“出来るかどうか”の方が大事なの」


その言葉に、畜産男爵は一瞬、言葉を失った。


――やっぱりだ。


――この領地、どこかがおかしい。


だが同時に胸の奥が、妙にざわついているのも確かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ