家紋の行き先
「……如何なっておるん?」
低く、腹の底から絞り出すような声だった。
「い、いえ……私共も……」
側近は視線を伏せ、歯切れの悪い返答しかできない。
まさか――フェルナード家が、我が家の家紋を勝手に使う?あり得ない。
もしそれが事実なら、国家反逆に等しい。極刑は免れない。
となると……。
「機構本部へ向かうぞ!」
―――
王都、機構本部。
「……な!?何だ、このどんよりとした雰囲気は……」
廊下に人が溢れ、書類の束が壁のように積まれている。
誰も彼もが目の下に隈を作り、余裕の欠片も無い。
「最高責任者を呼んでくれ」
「はっ……い、今すぐに……」
しばらくして、奥の執務室から聞き慣れた、投げやりな声が響いた。
「あーー……何だ、あんたか……で? ご用件は?」
「……何があった?如何した?更に妖怪じみてるが……」
「見ての通りよ。書類、書類、書類。新規登録が山の様に来てなぁ……全員泊まり込み」
机の上に積まれた紙束は、もはや雪崩寸前だった。
「聞きたいのは一つだ。新素材――“コンクリ”という物は、登録されているのか?」
「あー?あー……あったね、そんなの。で?」
「その袋に、我が家の家紋が印字されていた」
「……あー……ちょっと待ちな」
責任者は書類の山を掻き分け、慣れた手つきで一枚を引き抜く。
「えーっと……これだ」
目を通し、ふむ、と短く唸る。
「登録は……あの“ちびっ子”の領地開発名義ね」
「……では、生産は?」
「生産は――」
一瞬、間が空いた。
「……あんたの領地よ」
「……なっ!?」
「資料上はそうなってる。あんたの領地の“機構支店”から、生産申請も正式に届いてる」
「うちで……コンクリを……?」
思考が追いつかない。
「ちびっ子が、あんたの所に“委託生産”をお願いしたんじゃないの?」
「……その覚えは、無い」
「でしょうね。あんたがこの顔で来るって事は」
責任者は肩をすくめる。
「でも、書類は完璧。印章も、手続きも、全部正規」
「……つまり」
「つまり――あんたの知らない所で、あんたの領地は“新素材の一大生産拠点”になってるって事」
沈黙が落ちた。
「……あの、ちびっ子……」
誰に向けるでもなく、呟く。
「一体、どこまで先を見ている……?」
機構本部の重苦しい空気の中、
疑問だけが、さらに大きく膨らんでいった。




