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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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湯気の先に見えるもの

大衆浴場は、ほぼ完成と言っていい状態まで来ていた。

内湯は広く、動線も悪くない。

外に設けた露天も、岩の配置と目隠しの植え込みが効いていて、中々の出来だ。


「……うん、悪くないわね」


思わず頷く。

最初は無茶だと言われた計画だったが、形になってしまえば早い。


そして、その奥。

温泉熱を利用した温室も、完成間近だった。


こちらは正直、後付けの計画だ。

温泉を引くついで、という発想から始まった。

だが――それがあったからこそ、作業員の確保も、資材の融通も、一気に進んだ。


「結果的に、大正解ね」


温室の中は、ほんのりと暖かい。

外の空気とは明らかに違う。


湯船に浸かりながら、ふと考える。

せっかく温泉なんだから、湯船で一杯……なんて思ったけれど。


「……」


こっそり口に含んでみて、すぐに後悔した。


「……不味っ」


慌てて吐き出す。

前の世界では普通に飲めていたはずなのに、今の身体だと完全に無理だった。


「お子ちゃまの身体、恐るべしね……」


代わりに欲しくなったのは、冷たい牛乳。

だが、乳牛は今ここにはいない。


「……ま、仕方ないか」


それから、もう一つ。

身体を洗っていて、どうしても気になる事があった。


この世界の石鹸。

汚れは落ちるが、獣臭がわずかに残る。


「うーん……これは改良の余地あり、ね」


確か、原始的な製法では――

木の炭、もしくは灰を煮出して、その上澄みを使う。

そこに油脂を混ぜる。


「理屈的には、出来るはず」


問題は、この世界の材料で、どこまで質を上げられるか。


「……学術員さんに相談してみよう」


温泉が出来た。

温室も出来つつある。


でも、ここで満足している暇はない。


湯気の向こうには、まだ改善すべき事が山ほどある。


学術棟に顔を出して、石鹸の話を切り出すと、学術員さんは少し驚いた顔をした。


「いえ……理屈としては、ほぼ同じです」


木灰を煮出して作る灰汁。

油脂と反応させて固める。


聞けば聞くほど、私の知っている作り方と大差はなかった。


「ただ、今使っているのは動物性の脂が中心ですね」


「……なるほど」


あの獣臭の原因は、そこか。


「じゃあ、油を変えましょう。動物性じゃなくて、植物性で」


学術員さんが一瞬、目を瞬かせる。


「植物性、ですか?」


「ええ。試作でいいからやってみて」


アブアブから採れる油は、すでに十分な量がある。

それに、領内にはまだ使われていない植物も多い。


「アブアブ油はたっぷりあるし、それ以外も片っ端から試しましょう。品質の比較もして」


「……承知しました」


学術員さんは、次第に興味を帯びた表情になっていく。


「油ごとに香りや硬さ、泡立ちが変わるはずです。記録も取りますか?」


「もちろん。どうせなら、ちゃんとデータ残しましょう」


ただの生活改善、のつもりだった。

でも、こうして話していると、これは新しい産業の芽でもある。


獣臭のしない石鹸。

肌触りの良い石鹸。


「……うん、悪くないわね」


温泉に続いて、次は“清潔”か。

領地の価値は、まだまだ上げられる。


そんな予感が、静かに胸の中で広がっていた。

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