源泉、開通
「ククク……!」
思わず声が漏れた。
「いろんな事があって、中々進まなかったけど……ここに来てやっとだ!」
領主館の奥、湯気の立ち上る室内を見渡し、メイヤは満足そうに腕を組んだ。
「ついに、温泉を引き込めたぞ!!」
温泉水が、岩組みの湯船へと絶え間なく流れ込んでいる。
止め石の向こうで溢れた湯は、計画通り次の配管へと流れていく。
「よし……!」
メイヤは、ぱんっと手を叩いた。
「早速、ひとっぷろと行きますか!!」
「えっ?」
振り返ると、ミュネが目を丸くしていた。
「ミュネ!温泉へ行くわよ!」
「えええっ!?」
「……これが、温泉……?」
湯気の向こうで、ミュネが恐る恐る湯船を覗き込む。
「そうよ!」
メイヤは得意げに胸を張った。
「源泉掛け流しだわー!!」
「げ、源泉……?」
「うひょひょひょ!!」
既に脱ぎ終わったメイヤが、身体を洗いざぶんと湯へ入る。
「……あ」
思わず声が抜けた。
「まず身体を洗ってからね!!」
「は、はいっ!」
慌てて桶を取るミュネ。
湯船から立ち上る湯気が、室内を柔らかく包み込む。
「ふぅ〜〜〜……」
肩まで浸かり、メイヤは長く息を吐いた。
「こっちの世界に来てから……初めての、ちゃんとした風呂よ……」
「いつもはタオルにお湯をつけて拭くだけだったからね〜」
湯が肌に染み込む感覚に、自然と顔が緩む。
「……ミュネ、どお?」
「……」
ミュネは、すっかり湯船に溶けていた。
「温かくて……ぽかぽか……」
そのまま、ごろごろ……ごろごろ……と喉を鳴らす。
「毎日、入っても良いわよ?」
「えっ!?」
ミュネが跳ねるように顔を上げる。
「温泉だから、お肌にも良いと思うの!」
「そ、そうなんですかにゃ!?」
「たぶんね!」
適当だが、気にしない。
「いや〜……」
メイヤは湯船に身を沈め、天井を見上げた。
「こりゃ〜……やめられませんな〜」
湯気の向こうで、二人の笑い声が重なる。
温泉水は静かに流れ続け、領主館に――新しい日常が、ようやく根を下ろし始めていた。
「……ミュネ?」
「はい!何ですか、奥様?」
セリアは、ミュネの横顔をじっと見た。
「……なんか、毛艶が良いわね?」
「そうですか??」
ミュネはきょとんと首を傾げる。
「んーーー……何かしたの?」
「いえ?特には…………?」
一瞬考えてから、ぽんと手を打った。
「あー……でも最近、毎日、温泉入ってます!」
「……ああ」
セリアは納得したように頷いた。
「メイヤが騒いで作ってたやつね。もう完成したの?」
「はい!」
ミュネは少し誇らしげに胸を張る。
「奥様も如何ですか?気持ちいいですよ!」
「ふーん?」
セリアは腕を組み、少しだけ考える素振りを見せた。
「まあ……試しに見てみるか」
「まず先に、お身体を清めてくださいにゃ」
「はいはい」
言われるがまま、桶で湯を汲み、手早く身を清める。
「……ふんふん」
「それでは、湯船に浸かりますにゃ!」
ミュネが先に案内する。
「……あら〜」
湯船に足を入れた瞬間、セリアの表情が緩んだ。
「良いわね、これ」
「そうですよね!」
肩まで浸かると、じんわりと体の芯まで温かさが広がっていく。
「……ぽかぽか……」
「……あの子が、あれだけ騒いでいたわけね」
セリアは小さく息を吐いた。
「確かに、これは……」
湯気の中で、自然と口元が緩む。
「……悪くないわ」
ミュネは、そんな様子を見てにこにこしていた。
温泉の効果は、まだ誰も正確には理解していない。だが――少なくとも今、二人の体と心は、確かにほぐされていた。
静かに湯が流れ続ける音だけが、領主館の一角に満ちていた。




