現場が先に答えを出す
「……何だ、これは」
第1地区の仮設倉庫で、年嵩の職人が麻袋を覗き込み、低く唸った。
「粉……だよな?」
「説明書には、これと砂と水を混ぜろって書いてありますぜ」
「冗談だろ……石を積まずに、固めるだけだと?」
周囲には、同じく現場を預かってきた大工、石工、土木職人が集まっていた。
どれも一癖も二癖もある顔ぶれだ。
「試していい、壊していい、失敗していい、だとさ」
「……はっ。随分と気前がいい領主様だ」
「いや、違うな」
最年長の石工が、ゆっくりと袋の粉を掴み上げる。
「これは“急いで答えを見せろ”って事だ」
「……」
誰からともなく、無言で頷きが返った。
「よし。まずは仮壁だ。港側の崩れた通路、あそこを使う」
「石は?」
「使わねぇ。板で型を組め」
「正気かよ……」
そう言いながらも、手は止まらない。
それが現場の人間だった。
――数時間後。
「……おい」
「何だ?」
「……固まってきてやがる」
水気を含んだ灰色の塊は、まだ指で押すと水っぽいが。
「石、積んでねぇぞ……?」
「……馬鹿な」
「いや」
誰かが呟いた。
「これ……早いぞ」
現場の空気が、一気に変わった。
その頃、王都・機構本部。
「ちょっと待って!!」
書類を捲っていた機構員の声が裏返る。
「第1地区の復旧申請、設計図が……」
「またフェルナード絡み?」
「いえ、指揮はロウルのアステリア様ですが……」
別の机からも声が上がる。
「材料欄が変わってる!石材使用量が三割減!?代わりに……“新素材”?」
「新素材!?」
室内が一斉にざわついた。
「登録は!?」
「仮登録です!“現場判断による試験使用”って……」
「そんなの許可した覚え無いわよ!!」
「でも、現場からの報告では――」
一拍置き、声が落ちる。
「……施工速度が、従来の倍以上だそうです」
「……」
誰かが、乾いた音で唾を飲んだ。
「第1地区だけ、先に完成する可能性があります」
「……あの女、また勝手に……」
だが否定する者はいなかった。
再び、第1地区。
仮設の設計台の前で、職人達が図面を囲んでいた。
「港の倉庫、壁厚を半分に出来る」
「柱の間隔も広げられるな」
「だったら、動線を直線にしろ」
「……待て」
最初に袋を覗いた石工が、図面を引き寄せる。
「この素材前提なら、第3地区の設計をそのまま持ってくる必要はねぇ」
「どういう事だ?」
「管理と流通を最優先だ。ここは“王都の入口”になる」
図面の上に、新しい線が引かれる。
「荷が入る、捌く、出ていく。迷わせるな」
「……」
「見た目は後回しだ」
静かだが、強い言葉だった。
「まず“機能”を作る。その上で、後から飾れ」
誰かが苦笑する。
「……あの領主様の考え方に、似てきたな」
「仕方ねぇ」
石工は、図面から顔を上げた。
「答えを先に出されちまったからな」
第1地区の設計は、その場で書き換えられた。
誰の命令でもない。だが、確実に――街の形が変わり始めていた。




