距離を縮める船
あれから、更にあの三人の男爵について追加資料を受け取ったが──
ふむ……。
前から、お互いに取引はあったらしいな。
完全に独立しているようで、実際はそれぞれの弱点を補い合う形か。
木材、畜産、農業。
どれか一つ欠けても回らないが、三つ揃えば循環する。
なるほどな……。
もしこいつらの領地が、今よりも互いに近ければ。
発展の速度は、今の倍……いや、それ以上だっただろう。
となると──。
「おい」
「へい?」
「うちで建造してる、あの新型船だ。両脇に水車が付いたやつ」
「あー! あれですかい!」
「どの程度まで進んでる?」
「いや〜……正直、詳しい情報はまだでして」
チッ。
「完成したら、一隻すぐにこちらへ回せ。それと同型の二番船も同時に作らせろ。伝えておけ」
「わかりやんした!」
あの船なら、吃水が浅い。
遠浅の港にも入れるし、湾が狭くても取り回しが利く。
一隻で、木材男爵の港を回り、
畜産男爵の港で積み替え、
農業男爵の港で荷を載せて王都へ。
逆も同じだ。
「……一隻で三領地を繋げる」
距離が離れている?
だからどうした。
船が走る距離は、俺が縮めてやればいい。
「領地が遠いならな……」
アステリアは、地図の上に指を走らせながら、口元を歪める。
「少しでも、俺の方から近づいてやる」
港と港を線で結ぶのではない。
人と人、領地と領地を、流れで繋ぐ。
その中心に立つのは、船だ。
「採算は問題ねぇ……むしろ、ここからが本番だな」
距離は、障害じゃない。
工夫次第で、武器になる。
そしてその武器を持っているのは──
今は、俺たちだ。
「アステリア様!」
「……あー? ……ああ!木材男爵か」
「は、はい。お忙しいところ失礼を……」
男爵は一瞬言葉に詰まりながらも、背筋を正した。
「職人を数十名、第1地区に集めております。どれも現場指揮が可能な者ばかりです。追って、作業員も領地から呼び寄せております」
「よし」
即答だった。
「まずはそいつらに現状を見せろ。港、倉庫、動線、全部だ。無駄と詰まりを洗い出させろ」
「はっ!」
アステリアは懐から麻袋を二つ、いや三つほど放り投げた。
「それと、これを渡せ」
「……? こ、これは?」
「中身も含めてな。職人全員に見せろ。この二、三袋は――」
一拍置き、口元だけで笑う。
「実験に使って構わねぇ」
「じ、実験……?」
「説明書も一緒に渡してある。コンクリと、補助材だ」
「コンクリ……?」
聞き慣れない単語に、男爵は目を瞬かせる。
「建設に役に立つはずだ。いや、役に立たなきゃ困る」
「は、はぁ……」
「現場の判断で、使い方を考えろ。壊してもいい、失敗してもいい。だが、試さないのはナシだ」
男爵は袋を抱えたまま、思わず喉を鳴らした。
「……よ、よろしいのですか?このような物を……」
「いいから、さっさと行け」
「は、はいっ!!」
慌てて踵を返す男爵の背中を見送りながら、部下が小声で尋ねる。
「姉さん……あれ、相当な価値の……」
「知ってる」
「……」
「だからこそだ。“使える”って分かった瞬間、建築の常識が変わる」
アステリアは、遠く第1地区を見据えた。
「港はな、物だけじゃなく“技術”も流れる場所だ。ここを押さえりゃ、王都の作り方そのものが変わる」
そして、いつものように不敵に笑う。
「さあて……忙しくなってきたな」




