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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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魔法なんて、ありませんでした。

情報を集めた私は、ひとつだけ強く思った。


(……外の世界を、この目で見たい!)


フェルナード領は海も畑もあって、問題も山積み。

でも私が知っているのは、執務室の窓から見える景色と、庭だけだ。


(外に出ないと、何も分からないじゃない)


そう考えた私は、まず“準備”をすることにした。


前世の私はメモ魔だ。

メモを取れないと頭がモヤモヤする。


「ねえミュネ。紙と鉛筆をちょうだい!」


部屋を掃除していたミュネがぴしっと固まった。


「か、紙……ですか? メイア様」


「うん。簡単なやつでいいから!」


ミュネは困ったように耳を伏せた。


「……紙は、とても高価なんですよ? 貴族の子供でも、落書き用には使えませんし。

それに……“けんひつ”?ってなんです?」


(あ……ここ、“ペン”と“インク”しかない世界だった……!)


私は思わず頭を抱えた。

紙は高級品。

鉛筆という概念がない。

前世では百均で買えたのに……!


「じゃ、じゃあ……紙は後でいいわ!」


私が慌ててごまかすと、ミュネはますます怪しいものを見る目になった。


(紙に頼れないなら……チート能力で何とか……?)


私はふと、転生ものの定番を思い出した。

孫がよく話してくれていた、あの手の話だ。


「この世界……魔法とか……あるのかしら?」


ミュネが目を瞬いた。


「え? ありませんよ? 何を言って……」


(いや、でも“隠された力”とか、“転生者特有の補正”とか……!)


試してみる価値はある。


「――ウインドカッター!!」


……。


何も起きない。


ミュネが固まった。


「……メ、メイア様?」


私は焦りながら、もう一度構えた。


「ファイヤーボール!!」


……沈黙。


風も火も出ない。

もちろんエフェクトもない。


ただ、ミュネが口をぱくぱくさせている。


「め、メイア様……それ……踊りの練習か何か……?」


「ち、違うの! その……ちょっとした確認というか……!」


顔が熱い。

全身が熱い。


(な、何してるの私!? そこらの中二病じゃない!)


前世八十九歳。

落ち着いたはずの私が、なぜ六歳児として魔法を叫んでいるのか。


「……ミュネ、今のは忘れて……お願い」


ミュネは真剣だった。


「はい! 忘れます! 絶対に忘れます!

でも……本当に大丈夫ですか? 頭とか……打ちましたし……」


「だ、大丈夫よ!!!」


叫んだせいで、さらに恥ずかしくなった。


(……そうよね。そんな都合の良いチート、あるわけないわよね)


魔法もスキルもステータスもない。

あるのは――八十九年分の人生経験だけ。


(でも、それで十分よ。人生、楽をするだけが全てじゃないもの)


私は決心した。


「ミュネ。お父様とお母様に言いたいことがあるの。

外に出る許可がほしいの」


ミュネの目が丸くなる。


「えっ……い、今まで庭にしか出たことないのに?」


「だからこそよ。外を知りたいの」


ミュネは不安そうに尻尾を揺らしながらも、少し笑った。


「……分かりました。では、お二人にお伝えします。

でも……危険なところには行っちゃダメですよ?」


「もちろん!」


廊下へ走っていくミュネを見送りながら、私は小さく息を吐く。


(魔法はない。チートもない。

でも……私には前世の知識がある。

紙も鉛筆もないけど、頭はある!)


新しい世界は、まだ知らないことだらけ。

だから――まずは外へ出なきゃ。


そうして私は、フェルナード領の外の風を求めて、最初の一歩を踏み出すことにした。

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