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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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先手の色

「……2番船、順調に試験航行中か」


報告書を机に置き、アステリアは小さく頷いた。


「良い報告だ。これでさらに輸送力は上がる。

3番船の完成も間近……現行船の試験改修も進行中、か」


蒸気機関の調整、船体の微改修、スクリューの効率化。

数字を追うだけでも、速度と積載効率が確実に伸びているのが分かる。


「……全体的に、まだ伸びるな」


ふっと視線を上げ、天井を見つめる。


「んー?」


そこで、思考が一段深く沈んだ。


「待てよ……」


紫石。

蒸気機関の心臓。

フェルナード領――今はそこから回している。


だが。


「……王都周辺で、採掘してねぇのか?」


王都は古い街だ。

周辺領地も多い。

掘られている可能性は高い。


「もし……だ」


この辺りでも紫石が採れるなら。

輸送距離は激減する。

船も馬車も、その分“余力”が生まれる。


口の端が、ゆっくりと吊り上がった。


「……ククク」


机を軽く叩き、顔を上げる。


「おい」


「どうしやした?」


側近がすぐに反応する。


「この辺りで紫石を採掘してる権利、全部洗い出せ」


「……はい?」


「分かりにくい言い方したか?」


アステリアは即座に言い切った。


「その権利を――買い取れ。今すぐにだ」


一瞬の沈黙。

だが、側近はすぐに理解した顔になる。


「……わかりました。直ちに動きます!」


「急げよ。値が動く前にな」


側近が駆け出して行く背を見送りながら、アステリアは椅子に深く腰掛けた。


「一歩先を行ってやるぜ……姉御」


誰に言うでもなく、そう呟く。


船も、物流も、燃料も。

揃えた者が、次の流れを握る。


そしてその“次”は――もう、見えていた。



「姉さん!大変です!」


扉が勢いよく開き、側近が息を切らして飛び込んできた。


「んー、どうした?」


「紫石の件ですよ!」


アステリアの目が鋭くなる。


「おう。どうだった?」


「それが――!」


側近は一度息を吸い直し、早口で続けた。


「フェルナード領周辺は勿論、王都近郊……紫石の採掘地、全部押さえられてます!」


「……はぁ???」


「どこにだ!?」


「フェルナード領と――そこに食い込んでる商人達です!」


一瞬、思考が止まる。


「……はぁ?いつからだ?」


「それが、つい最近です!!しかも、権利買いじゃなくて……土地ごと直接買い取ってる場所が殆どです!」


「……あぁぅ、あぅ……」


アステリアは額を押さえ、数秒だけ黙り込んだ。


(やられたな……姉御)


先手を取ったつもりが、さらにその先を取られていた。

紫石の重要性に気づいたのは、自分だけじゃなかったという事だ。


だが――


「……そぉそぉ」


顔を上げたアステリアの目に、迷いはなかった。


「それなら話は簡単だ」


椅子から立ち上がり、即座に指示を飛ばす。


「フェルナード領より逆方向だ」


「……え?」


「王都とフェルナードを結ぶ線から外れた方向の採掘地を、今すぐ洗い直せ!」


地図の端を指でなぞる。


「見落とされやすい場所。輸送が面倒で、今まで価値が低かった所を重点的にな」


「なるほど……!」


「距離がある?だからどうした。船も馬車も、もう揃ってる」


アステリアは不敵に笑った。


「押さえられてる所に突っ込む必要はねぇ。

誰も見てねぇ場所を、先に掴めばいいだけだ」


「……了解です!直ちに調査に走らせます!」


側近が飛び出して行く。


一人残ったアステリアは、窓の外を見て鼻で笑った。


「姉御……確かに一枚上だ」


だが。


「盤面が広がっただけだ」


先を取られたなら、さらに外へ。

流れを変える手は、まだ残っている。


アステリアは、次の一手をもう描き始めていた。

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