紙の洪水
王都にある機構本部は、朝から異様な空気に包まれていた。
廊下を行き交う職員の足取りは早く、声は自然と大きくなる。
机の上には未処理の書類が積み上がり、普段なら整然としているはずの書庫前にも人だかりが出来ていた。
その様子を、奥の執務室から眺めながら、ババアが眉をひそめる。
「……何ざわついてるのよ?」
報告役の職員が、やや息を切らして答える。
「早馬……いえ、早馬車が到着しました」
「早馬車?」
ババアは片眉を上げる。
「それが……三台です」
「三台も?何積んで来たのよ?」
一瞬の間。
職員は喉を鳴らし、はっきりと言った。
「……三台とも、フェルナード領からであります」
「はぁ〜?」
声が、素でひっくり返った。
「登録確認書です。ロウルからの書面も混ざっております!」
「……なっ!!」
ババアは椅子から半分立ち上がった。
「ちょっと待ってよ!?冗談で言ってた事が、実際に来たっての!?」
机を指で叩きながら、書類の山を睨みつける。
「どんだけ新商品考えたのよ……物流が戻りつつあるから、一気に来たって事!?」
三台分の書類。
新型機械、改良品、派生製品、用途違いの再登録。さらに、ロウル名義の船舶関連登録まで混ざっている。
「……こりゃ……」
一瞬、頭を抱えそうになるのを堪え、ババアは顔を上げた。
「うぉおい!!」
執務室の扉を勢いよく開け、廊下に向かって怒鳴る。
「皆んな!ざわざわしてるだけじゃ仕事は終わらないわよ!」
職員達が一斉に背筋を伸ばす。
「さっさと降ろして!仕分けして!番号振って!目を通すわよ!!」
その声に押される様に、機構本部は一気に“仕事場”へと戻っていく。
紙が運ばれ、印が押され、走る足音が重なる。
ババアは机に戻り、最初の束を掴んだ。
「……まったく」
口元だけで笑う。
「これだから、あの辺境は……静かにしてると思ったら、まとめて殴ってくるんだから」
それでも、その目は冴え冴えとしていた。
この洪水は、停滞ではない。
間違いなく――前進の証だ。
そして機構は、その最前線に立たされている。




