湯気の向こう側
ふふふ!
温泉水が通るU字溝の設置が、ついに終わった。
石組みも勾配も問題なし。
試し流しでは、湯気を立てながら温泉水が素直に流れていく。
「……良し!」
思わず、小さく拳を握る。
今は貯水塔の建設が進んでいる。
そこからまずは、領主館へ。
そして後から、大衆浴場へと分岐させる予定だ。
領主館側は、完全に室内風呂。
落ち着いた造りで、冬でも使える様に断熱重視。
大衆浴場の方は、半分は露天。
湯気の中で空を見上げられる様にしてある。
どちらも、すでに建築は始まっている。
「同時進行って、やっぱり楽しいわね」
もちろん、それで終わりじゃない。
使い終わった温泉水――
その排水は、温室へと流す計画だ。
無駄にしない。
むしろ、ここからが本番。
温室の方も、すでに基礎工事に入っている。
地面を均し、配管の通り道を確保し、熱が逃げにくい構造に。
「学術員さん達、張り切ってるし」
効率良く温めるための水の流れ。
夜間の保温。
植物ごとの温度帯の調整。
全部、抜かりなし。
人手はまだ潤沢とは言えない。
それでも、一時期よりは確実に回り始めている。
ゼロと半分は、全然違う。
「……後、少し」
メイヤは、建設現場を見渡す。
石、木、鉄。
人の声と、槌の音。
そこに、やがて湯気が混じる。
「楽しみだわ〜」
この領地に、新しい“当たり前”が生まれる。
それを思うだけで、自然と笑みがこぼれた。
まだ完成じゃない。
でも、もう止まらない。
湯気の向こう側には、確かな未来が見えていた。
一方その頃、ロウルでは。
造船所に、独特の緊張感が漂っていた。
新型貨物船――二番船の火入れが行われていたのだ。
「……圧、安定」
「回転数、問題なし」
蒸気が送り込まれ、機関が低く唸る。
一番船で得た経験を反映した調整もあり、立ち上がりは極めて滑らかだった。
「よし……回ったな」
責任者達が、ほっと息を吐く。
二番船は、一番船よりもわずかに改良されている。
配管の取り回し、整備動線、そして燃料効率。
派手な変更ではないが、積み重ねた“使いやすさ”が詰め込まれていた。
さらに、隣の船台では――
「三番船、あと少しで外装に入れます!」
三番船も、完成間近。
木と鉄の複合構造はすでに組み上がり、内部機構の最終確認段階に入っていた。
だが、革新は新型船だけではない。
旧型船の改修も、同時に進められていた。
従来の船体に、蒸気機関を一基。
推進はスクリュー二本型。
速度は新型ほどではないが、安定性は格段に向上する。
積み卸し方式は従来のまま――
だが、船体には簡易クレーンが追加されていた。
「これで港での滞留時間が一気に減るな」
「新型船を待たなくても回せるのがデカい」
全てを一新しない。
使える物は使い、足りない所だけを補う。
それが、今のロウルのやり方だった。
新型船が“未来”を運び、
改修船が“今”を支える。
気づけば、港の風景そのものが変わり始めていた。
誰も声高には言わない。
だが、確実に理解していた。
――この流れは、もう止まらない。




