値段を決める者
一番最初に到着したのは、木材男爵だった。
「早かったな」
アステリアがそう言うと、男爵は胸を張るでもなく淡々と答えた。
「以前から、規格を揃える方が効率が良いと考えておりまして。領内では、同一寸法を基本にしております」
積み下ろされた木材を見ただけで分かる。
長さ、太さ、加工精度――揃い過ぎている。
「……やるなぁ」
思わず、アステリアは感心した声を漏らした。
「それでだ。領内に、今手の空いてる技術者、大工、建築作業員は居るか?」
「居りますが……?」
「居たら全員連れて来い。王都は今、その手の人間が致命的に足りねぇ」
男爵は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに頷いた。
「承知しました」
「材料は止めずに、そのままどんどん送れ。支払いは、来た分をその場で済ませる」
王都全体が修繕と建築に人を取られている。
それを理解しているからこそ、アステリアは迷わなかった。
二番手に到着したのは、畜産男爵だった。
「内訳はこれだ!」
軍馬、一頭。
馬車馬、四頭。
肉牛、十頭。
乳牛、十二頭。
豚、六頭。
山羊、十三頭。
「……ふむ」
アステリアは柵の中へ入り、手早く一頭ずつ状態を確認していく。
蹄、毛並み、目の輝き、呼吸。
「悪くねぇな」
そう言って、すぐに金貨袋を出した。
「ここで全部払う」
「え!? こ、こんなに!?」
男爵が声を裏返す。
だが、アステリアは首を傾げただけだった。
「変に色付けた訳じゃねぇぞ。今の市場価格だ」
どうやら、これまで相当に買い叩かれていたらしい。
だが、アステリアにとって価格とは、交渉の道具ではない。
「まだ居るなら、持って来い」
そう言い残す。
馬は全てフェルナード領へ。
他の家畜も三分の一をフェルナード領へ回し、残りは王都の市場へ流す。
無駄も、溜め込みも、しない。
最後に姿を見せたのは、農業男爵だった。
積まれた小麦を見て、アステリアは一瞬だけ考える。
「……今は、ダブつくな」
王都に小麦が流れ込み始めている。
だが、それも一時的なものだ。
「数週間前の価格で、全量引き取る」
「え……? よろしいのですか?」
「今だけ見りゃ、そう思うだろうな」
アステリアは軽く肩をすくめる。
「だが、相場ってのは“今”だけで決めるもんじゃねぇ」
当然、その場で現金払い。
農業男爵と執事は、何度も頭を下げた。
三人が去った後。
部下が小声で言った。
「……随分、思い切りましたね」
「市場はな」
アステリアは港を見渡しながら答えた。
「信頼で回る時期と、疑心で荒れる時期がある」
今は、まだ前者だ。
「値段を決めるのは、立場でも力でもねぇ」
ゆっくりと、そう締めくくる。
「“今をどう読むか”だ」
王都の港は、今日も騒がしい。
だが、その裏で、静かに“差”が生まれ始めていた。




