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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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空白の区画

よし!


「おーめーら! 第1地区を見に行くぞ!」


「おう!!」


港の喧騒から少し離れた場所。

そこに広がっていたのは――


「……こりゃ……」


「手付かず、ですなぁ。姉さん……」


崩れた建物、放置された資材、歪んだままの道。

復旧どころか、手を付けた形跡すらほとんど無い。


「だなぁ……」


アステリアは周囲を一巡し、低く息を吐いた。


「手を挙げた貴族って、誰だ?」


「えっと……資料だと……あー。男爵家が三名だけですね」


「……三名?」


「はい。いずれも海に接した領地を持ってますが、大型船は無し。中小型船が主力ですな」


「資金は……」


「えー……どっかの地方貧乏男爵よりはマシかと? はは」


「ふっははは!」


思わず笑いが漏れる。


「なるほどな……」


アステリアは、資料を指で叩いた。


「内乱の時は?」


「少なくとも兵は出してます。完全な様子見組では無いですね。まあ兵力が少なく手出し出来なかった見たいですが……」


「ふむ……」


視線を区画全体に戻す。


「それに……王都との交易が主収入、か」


「はい。ここが死んだままだと、相当困る連中ですな」


「成る程」


アステリアは頷いた。


「確かに、さっさと復旧してくれないと不味い連中だ」


一拍置いて、決める。


「その三名と話す」


「直接、ですか?」


「出来れば直接だ。無理なら連絡でも良い」


部下を見る。


「さっきの侯爵……段取りを頼め」


「はっ!」


部下が走り去るのを見送りながら、アステリアは区画をもう一度見渡した。


「……何も無い場所ほど、やりやすい」


そう呟いた声は、誰に聞かせるでもなかった。


さて。

「大体の設計は、先に済ませておくか」


アステリアは瓦礫だらけの第1地区を見渡しながら、頭の中で線を引いていく。

通りの幅、倉庫の配置、人と荷の動線。

第3地区で得た経験が、そのまま活きていた。


「……ここは、あそこより更に効率重視だな」


管理しやすく、滞らない。

復旧後に人が増えても、混乱しにくい構造。


「まっさらだと、これが出来るからやりやすい」


皮肉にも、完全に壊れているからこそ、余計な制約が無い。


そこへ、部下が駆け寄って来た。


「姉さん!」


「ん?」


「セリア様から、姉さん宛に荷物が届いてます!」


「……俺宛に?」


アステリアは眉を上げた。


「何だろ?」


港の一角に運び込まれた箱を前に、部下が首を傾げる。


「中身は……」


蓋が開く。


「……酒類ですね。しかも色んな種類が入ってます」


「は?」


さらに横の袋。


「こっちも開けてみやすぜ〜」


袋を解いた瞬間、白い結晶が覗いた。


「……っ!? これは……」


「砂糖!?!?」


「げっ! 十袋も!?」


思わず声が荒くなる。


「おいおい……どこが地方の貧乏男爵だよ……」


部下が、箱の底から一通の文を取り出した。


「文もありやすぜ!」


「……何て?」


読み上げる。


『お疲れ様!アステリアちゃん!

お酒いろいろ送ったから、皆んなで飲んで!!全部、新開発のものよ!!

帰ったら感想、ちゃんと聞かせてね!』


「……」


さらに続く。


『それと、アステリアちゃんならお金の管理は大丈夫だと思うけど、軍資金代わりに砂糖を十袋送ったから、上手く使ってね!そのまま食べても良いわよ!』


読み終え、アステリアはしばらく無言だった。


「……はは」


やがて、乾いた笑いが漏れる。


「全く……」


「相変わらず、規模がおかしいな……姉御は」


アステリアは砂糖袋を一つ、軽く叩いた。


「だが……」


視線を第1地区へ戻す。


「これは効く」


酒は人心を和らげる。

砂糖は、資金にも交渉材料にもなる。


「……よし」


「第1地区、やるぞ」


その声には、先ほどまでの疲れは無かった。

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