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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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芽吹く余白

久しぶりに、何の予定も入っていない一日。

メイヤは朝の光を浴びながら、大きく伸びをした。


「たまには、いいわよね? ミュネ」


「はい! 最近はずっとバタバタなさってましたから!」


「じゃあ、ちょっと町中をぶらぶらしてくるわ」


「お気をつけて、いってらっしゃいませー!」


玄関を出た瞬間から、メイヤの足取りは軽かった。


「ふんふんふん〜、ふんふんふん〜」


歩きながら、領都の様子を眺める。

服屋、家具屋、道具屋。

以前は飲食店ばかりだった通りにも、生活を支える店が増えてきている。


「大分、“領都”になって来ましたなぁ」


住宅地の建設もまだ続いている。

土埃は立つが、それも今だけだ。


「うん、良い感じ」


そう思ったところで、視線が止まった。


「……ん?」


ロウガの店の前。

そこに、見慣れない苗木と、いくつもの麻袋が積まれている。


「何じゃ、この苗木……と麻袋は?」


「おう、メイヤじゃねーか」


中から顔を出したロウガが、にやりと笑う。


「またトラブルか?」


「違うわよ。今日は休み的な日」


メイヤは麻袋を指差す。


「それより、これ何?」


「ああ、それな。お前んとこの、かーちゃんが頼んだ奴だよ。正直、集めるのに苦労したぜ」


「……え?」


「麻袋、開けて見てもいい?」


「まあ構わねーよ。でも溢すなよ」


一つ目の袋を開ける。

中には、小さな豆がぎっしり詰まっていた。


「豆……? 随分小さいわね。小豆を、さらに小さくしたみたい」


指先で摘み、じっと見る。


「……ん?」


一瞬、記憶の底がざわつく。


「これ……ヤブツルアズキ、じゃない?」


「はぁ? ツルアズ 豆だぞ?」


「確か……小豆の原種みたいなやつだったはず??」


メイヤは少し考え、頷いた。


「試しに、レシピを書いて袋に貼っておこうかな。お母様が見たら、興味持つかもしれないし」


「作るのは、ナルトだろ?」


「多分ね」


次の袋を開ける。


「……これは、球根?」


見た事のない形状だ。


「それは、マユリだったな」


「マユリ?」


メイヤは首を傾げる。


「……ヤマユリの一種かしら?こんな形、初めて見たわ」


さらに別の袋。


「これは……種?」


「ルバー、だったかな」


「ルバー?」


一瞬考え、ぽんと手を打つ。


「ルバームね、多分?」


メイヤは袋を閉じ、全体を見渡した。


「……なるほど」


「全部、食べ物になる植物ね」


「おー。そうらしいぞ?細かい育て方や調理の仕方の書類がまだ届いてなくてなくてな」


「それと私が分かる分だけでも、全部レシピを書いて貼っておくか。芽が出るか、味がどうかは……その後のお楽しみね」


ロウガは肩をすくめた。


「相変わらずだな。休みの日まで、仕事みてーな事してやがる」


「違うわよ」


メイヤは、にこりと笑う。


「今日は、散歩のついでに拾い物をしただけ」


メイヤは、苗木の方へと視線を移した。


「……で、この苗木は??」


「ああ、それな」


ロウガは少し声を落とす。


「コショコショってやつだ。学術員と俺も、奥様には話したんだがな……南の方の植物だから、この地には合わないだろって」


「南?」


「でもよ。やってみなきゃ分からん、ってさ」


メイヤの動きが、一瞬止まる。


「……南。コショコショ……」


眉がわずかに寄る。


「まさか……胡椒?」


「……は?」


メイヤは苗木を覗き込む。


「これ、何に使うって聞いてる?」


「確か……実か何かを料理に使うって話だったな。詳しい書類が来なくてよ。名前も用途も、あやふやだ」


「……間違いないと思う」


メイヤは小さく息を吐いた。


「多分だけど」


「へぇ。そんなにすげーもんなのか?」


「すげー、というより……」


言いかけて、メイヤは口を閉じた。


今は、言わない方がいい。


「……育てば、解るわ」


そう言って、他の苗木に目を向ける。


「じゃあ、他のは?」


「観賞用だ」


「ふーん」


メイヤは軽く頷いた。


「まあお母様、植物好きだからなぁ」


苗木の列を見渡しながら、何気なくそう呟く。


だが、メイヤの中では――

さっきの一本だけが、妙に引っかかっていた。


南の植物。

この土地に合わないと言われた苗木。

それでも、やってみる。

その選択が、後にどれだけの価値を生むのかを――この時、まだ誰も知らない。

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