学園初日と“去っていく貴族たち”
その夜。セレステ邸の客間には、メイヤ、リディア、そしてミュネが集まり、湯気の立つハーブティーを囲んでいた。
「ねぇ……今日のあの人、世界商品登録機構の責任者……一体何者なの?」
メイヤが震える声で切り出すと、ミュネが「そこ気になりますよね」と笑って頷いた。
「正式に言うと――
機構総責任者・アグライア=ホルンベルグ様。
王国が創設した“産業・技術・商取引の最高機関”で、全部門の統括役です」
「そんな人だったの!?」
「そりゃ怖いわけだ……!」
ミュネはお茶を置き、さらに続ける。
「昔から“鉄の女”とも呼ばれてます。学園でも名物でして……現役時代、全学科で歴代最高点をたたき出したとか」
「え、それミュネ、なんでそんなに詳しいの?」
リディアが不思議そうに聞くと――
ミュネは少し照れたように笑った。
「えっと……実は私もこの学園の卒業生なんです。だから先生や制度はほとんど知ってますよ」
「なんと……!」
「ミュネって実はすごかったりする……?」
「いえいえ!ただのメイドですから!この家から学園までは歩いて二十分ほどですし……明日も間に合うように起こしますね!」
メイヤとリディアは、頼もしさに思わず顔を見合わせた。
■翌朝、学園へ
朝の王都は、通勤と商人の荷運びで活気に満ちていた。
2人はミュネに見送られ、メイヤとリディアは並んで学園へ向かう。
「本当に二十分だね。ちょうどいい運動だよ」
「うん。……でも、なんか視線が痛い気がする」
学園前に近づくと、門の脇で談笑していた貴族の一団が、こちらをちらりと見て口を開いた。
「平民は大変だな。わざわざ歩いて登校とは」
「……はぁ、これね」
「セレステが言ってたやつだ」
二人は顔を見合わせ、小さく肩をすくめた。
だが、周囲を見渡すと歩いて来ている学生は普通にたくさんいる。
(あれ?これ、貴族だけが騒いでるパターン……?)
と思っていると――別の声が聞こえた。
「あれ?あの二人……特待生じゃね?」
「ってことは、あの領地再生の……?」
ヒソヒソ話が一気に広がる。
「もういいよ……朝から疲れたよ……」
「メイヤ、顔に出てるよ」
半ばため息まじりで、二人はクラス分け掲示を確認した。
「同じクラスだって」
「よかった……別だと泣くところだった」
■ざわつく教室
教室に入ると、まだ登校したばかりの生徒たちがざわめいていた。
メイヤとリディアが入ると、すぐにヒソヒソと声が上がる。
「特待生だ……」
「しかも二人とも貴族?」
「領主家だってよ」
遠巻きに距離を置かれ、観察されるような視線が集まる。
(あー……これが学園ってやつね。しかも貴族の距離感、面倒だ……)
メイヤは学生生活自体久しぶりで、少し胸が高鳴るのを感じつつ、同時に不安もある。
リディアは落ち着いていて、
「まあ、こうなるよね」とでも言いたげだった。
間もなく、クラス教師が入室した。
■クラス教師の自己紹介と――謎の退室
「えー、本日からこのクラスを担当する、クラウスだ。難しいことは後回しにして、まずは出席と自己紹介からだな」
五十代ほどの男性で、落ち着いた空気をまとっている。
王族派か反王族派か――そのあたりは一切読み取れない。
生徒が順番に自己紹介をしていくと――
授業開始数分前。
突然、貴族の一団が立ち上がった。
ガタッ、ガタガタッ。
そして――そのまま出口へ歩いていく。
「あれ?え……帰るの?」
「授業、これからだよね?」
メイヤもリディアも目を丸くした。
しかしクラウス教師は全く止めない。
「出ていく者は放っておけ。授業を始める」
淡々とした一言で授業が進行し始めた。
(な、何これ……?)
(セレステが言ってた“貴族のサボり”ってこれか……)
教室には半分ほどの生徒だけが残った。
■残ったメンバーで再び自己紹介
授業後、クラウス教師が言った。
「残った者同士、顔を覚えておけ。こっちの方が、よほど意味がある」
教師が去ると、生徒たちは自然と輪になった。
「私たち、商人の家です。よろしく!」
「うちは鍛冶屋なんだ」
「農家です!」
平民や商人階級の子どもたちばかりだった。
その中の一人が、興味津々で二人に近づく。
「貴族の人が残るなんて珍しいよ。普通、貴族は“授業を受ける必要がない”って帰っちゃうらしいから」
別の子も続ける。
「話しかけても無視するさ。だから今日みたいに残る貴族がいるって、逆に嬉しいよ!」
メイヤとリディアは顔を見合わせ、微笑んだ。
「そんな……私たちも普通に授業を受けたいんです」
「むしろ、皆と話せて助かったよ」
こうして、二人の学園生活は――
予想外の静けさと、予想外の温かさに包まれて始まったのだった。




