世界商品登録機構と“ババア”たち
王との謁見を終え、緊張がほどけたメイヤとレティアは、王城の大理石の廊下を歩きながら大きく息を吐いた。
「や、やっと終わった……」
「倒れなくてよかったです……」
肩の力が抜けた二人の背を、セレステが軽く叩く。
「ほらほら!安堵してる暇はありませんよ!王様から頼まれてる用件が残ってますからね!」
「えぇぇ……まだあるんですか……?」
「あるわ。世界商品登録機構よ。書類関係は全部あそこでやらないといけないの」
セレステは当然のように言い、二人を引っ張った。
■世界商品登録機構へ
王都の中心街にそびえる巨大建築物――白亜の壁に青い屋根、門番が二人立ち、出入りする商人は皆、身分証を掲示していた。
「すごい……王城かと思いました」
「王城より厳重じゃないか……?」
「当然よ。ここは“世界中の産業の心臓部”だから」
セレステの解説に、メイヤとレティアはさらに緊張する。
中へ入ると、壁一面に並ぶ棚、積み上がった書類の山、走り回る職員たち。
混沌の中に秩序があるような、まさに官僚の巣窟だった。
「さて……クロスボウ四百丁の特別注文。その確認をしないとね」
セレステは受付に向かい、職員に言った。
「トップを呼びなさい。“ババア”をね」
職員は一瞬固まり、目を白黒させた。
「こ、ここの最高責任者を……あの……その呼び名で?」
「そうよ。伝えなさい。“セレステが呼んでる”ってね」
職員が震えながら奥へ走っていく。
数分後。
ズカッ、ズカッと音を立てて、年配の女性が姿を見せた。
背筋はピンと伸び、濃い灰色の髪をきっちりまとめ、目つきは鋭い。
「誰だい?私を“ババア”呼ばわりするのは」
「私よ、ババア」
「セレステかい、ババア」
二人の間に、目に見えそうな火花が散った。
(こ、怖い……!)
(ババア対ババア……!)
メイヤとレティアは身を寄せ合った。
■最高責任者“ババア”の査定
「で?今日は何用だい」
セレステがクロスボウの注文書を差し出す。
「四百丁の正式受注の確認よ。それと――」
「この二人を登録してやっておくれ」
年配女性はメイヤとレティアをじろりと見た。
視線が刺さるようで、二人は思わず姿勢を正す。
「ん?こっちのちっこいの……」
指さされたのはメイヤ。
「これを開発したのはお前さんか?」
「は、はい……一応……」
「ふん……やっぱりね」
老女はニヤリと笑い、机を叩いた。
「職員!このちっこいのを、ここの情報が見られる“閲覧許可者”に登録しな!推薦人はそこのババアでいい!」
「かしこまりました!」
メイヤは目を丸くした。
「えっ……わ、私がこんな施設の閲覧を……?」
「気にすんじゃないよ。将来、ここで厄介になるね、あんたは」
(な、なんか察されてる!?)
レティアの方を見ると、老女はさらにニヤついた。
「お前さんは……そうだね。武器屋に紹介状を出しておくよ。長剣と短剣を買いな」
「えっ!?どうして私に?」
「どうせ必要になるよ。いずれね。若い芽には道具がいる」
そして去り際、振り返る。
「領地には私から早馬で知らせておくから!じゃあね、ババア!」
「そっちこそ、気をつけて帰りなさいよ、ババア!」
バチバチバチッ!
老女とセレステは再び火花を散らしながら別れた。
■紹介状を手に武器屋へ
「ほら、次は武器屋よ。紹介状があるうちに行かないと」
セレステに押され、三人は老舗の武器屋に入った。
カウンターの奥から店主が出てくる。
「いらっしゃ――って、なんだこの紹介状は!?
こ、こ、これは……“あの人”の!」
店主は紹介状を持つ手を震わせ、三度見した。
「失礼しました!既製品などでは到底ダメです。オーダーメイドで作らせて頂きます!」
レティアは慌てふためく。
「オ、オーダーメイドなんて……!」
「太刀筋を見せてもらえればすぐ決まる!さあ庭へ!」
「えぇぇぇぇ……!」
メイヤも巻き込まれ、短剣の選定を受けることになった。
「ちっこい方は軽めの短剣だな!ほら振ってみろ!」
「ふ、振るんですか!?ここで!?」
「ここは武器屋だぞ!」
王都の武器屋は想像以上に豪快だった。
■セレステ邸へ
武器の注文が終わると、夕暮れが迫っていた。
「さて、泊まるところを決めないとね」
とレティアが言うと、セレステは軽く手を挙げる。
「ミュネも一緒なんだし、うちに泊まりなさい。どうせ私は学園の寮で寝泊まりしてるし、家は空いてるから」
言われて案内された家は――
「で、でかい……!」
「領主館より大きいですよ……!」
まさに大貴族の邸宅だった。
「遠慮しなくていいわよ。明日から学園でしょ?初日から遅刻はダメよ?」
「……が、がんばります……!」
二人は緊張に包まれながら、その夜を迎えるのだった。




