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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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本部前、矢は語る

港で略奪――いや、戦利品回収が進むその頃。

装甲馬車は既に、世界商品登録機構・王都本部の目前まで迫っていた。


近衛隊の馬車だけが、そのまま本部前を通過し、王のいる城へと進路を取る。


その背を見送りながら、機構隊の装甲馬車に同乗していたリディアが、腹の底から叫んだ。


「学生隊!!左右に分かれて住宅地へ!!ビラを撒け!!」


一瞬の間。


「撒き終わったら、本部前に集合!!」


号令と同時に学生隊の馬車が左右へ分かれ、夜の街へ消えていく。

リディア自身は土地勘が無い。その為、機構隊と同じ馬車に残った。


そして――


「止まれ!!」


本部前。装甲馬車が完全に停止する。


扉が開く前から気配はあった。


機構隊長が勢いよく飛び出し怒鳴る。


「ババアーーー!!生きてるかぁ!!」


――その瞬間。


シュッ!!


何かが風を裂き、左頬をかすめた。


「……へ?」


遅れて、痛み。


視線を上げると、建物の影から一人の老婆が、クロスボウを構えていた。


「……何だ。あんたかい」


「このババア!!俺に矢を放ちやがって!!

殺す気か!?」


「はぁ?ちゃんと外しただろ?変な爆発音に、聞き慣れない馬車の音!そこに勢いよく扉開けられりゃ、撃つに決まってるだろ」


「普通は声かけろ!!」


「それとさ」


老婆はクロスボウをひょいと掲げる。


「何でここにいる連中が、クロスボウ装備してんだい?」


「あー?ここにだって作製部署あるだろ?そこで作ったんだよ」


「……なるほどね」


老婆は一瞬だけ納得した顔をし、すぐに怒鳴った。


「それと!!作製部長!!照準がズレてるわよ!!」


「テメー!!思いっきり狙ってただろ!!ズレてなきゃ死んでたぞ!!」


「結果外れてるんだから問題ないだろ」


言い合いを始めた二人の間に、リディアが一歩前に出る。


「……お久しぶりです」


「あら」


老婆の視線が、リディアに向いた。


「リディアちゃんね?暫く見ない内に、随分凛々しくなったじゃない」


「ありがとうございます!」


「俺の話を――」


「それより」


老婆はぴしりと指を立てた。


「学園の同級生も来てるみたいね!後で皆に伝えなさい」


リディアの表情が強張る。


「みんなの家族は――」


「安心しな!学園で保護してる!多少疲れてるけど、全員元気だ」


リディアの肩から、ふっと力が抜けた。


「今はね!あのクソババアと一緒に籠城中だけど」


「……え?」


「王都は今、思ったよりも面倒な事になってるよ」


老婆は不敵に笑った。


「でもまあ〜来たなら、話は早い」


リディアは深く頷く。


「……わかりました」


夜の王都で、ついに「中」と「外」が繋がった瞬間だった。


「ババア!状況は!?」


機構隊長の問いに、老婆は肩をすくめた。


「昼間はまだ何とかまだ外を歩けるさ。だが夜はダメだ」


「不味いのか?」


「不味いどころじゃないよ。物騒な連中が、そこらを彷徨いてる」


その言葉に、リディアが思わず息を呑む。


「王都の軍はどうなってる?」


「疑わしいって理由で出撃すりゃあ」


「別の場所で火事」


「橋が落ちる」


「倉庫が燃える」


「……」


「結果、兵力は分散。疲弊。指揮系統はズタズタだ」


「近衛は!?」


「城を守るので手一杯。まあ、そもそも近衛だ。攻めるための連中じゃない」


「何だよそれ!!」


機構隊長が吐き捨てる。


「他領地の軍は?」


老婆は鼻で笑った。


「動けないのよ。先日もね、どっかの領軍の中隊が壊滅したって話が出た」


「敵は?」


「それがハッキリしない」


「……は?」


「噂だけが先に走るんだよ。壊滅させたのは王直轄軍だとか。いや他領の軍だとか」


「滅茶苦茶じゃねーか!」


「それだけじゃない。漁夫の利を狙って、遠方で様子見してる連中もいる」


「文は?」


「本物と偽物が入り乱れてる。同じ内容なのに、差出人が違う。逆に真逆の命令文も出回ってる」


機構隊長が低く唸る。


「……そこまでか」


「そうよ!この王国内部に、手引きしてる連中がいる」


「多いのか?」


「想像より、ね」


老婆は声を落とした。


「外国の一部も噛んでるって話だ」


「……」


「だがよ」


機構隊長が食い下がる。


「補給や資金がなきゃ、ここまで出来ねーだろ?」


「その通り」


老婆は迷いなく頷いた。


「商会」

「工房」

「両替商会」


「……やっぱりか」


「例の件に反発してた連中が多いよ。表では従ってる顔して、裏で牙剥いてた連中さ」


一瞬の沈黙。


「で?」


「怪しいのはどの辺だ?」


老婆は指を一本立てた。


「第1地区の港」


「……」


「今じゃ誰も近寄れない。近寄った奴は、戻って来ないそうだ」


その場の空気が、一気に冷えた。


リディアは、無意識に拳を握りしめる。


――港。

――第1地区。

――外国船。


すべてが、一本の線で繋がり始めていた。

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