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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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夜の訓練、普通じゃない兆し

訓練場に、いつもより張り詰めた空気が流れていた。


三名の隊長が前に立ち、新たな訓練項目の配布と説明が始まる。


「――本日より、夜間訓練を実施する」


その一言で、場がざわついた。


「夜間……?」


「今までそんなのあったか?」


騒めきが広がるのも無理はない。

理由はすぐに、誰の目にも明らかだった。


訓練場の端。

またしても、見慣れない建物が増えていた。


「……あれ、また何か建てたのか?」


先日も、用途不明の扉付き建物が突如現れ、

そこからの降車訓練などという、意味不明な内容をやらされたばかりだ。


明らかに、今までの基礎訓練や隊列訓練とはかけ離れている。


そして今回の建物は、さらに露骨だった。


狭い通路。

角の多い構造。

視界の遮断を前提とした壁の配置。


誰が見ても――


「……市街戦、だよな?」


その通り。

完全に市街戦を想定した造りだった。


その場に居たナータは、建物を一瞥し、内心で首を傾げる。


まあ……訓練だし?


これも普通……なのかしら?


そう思おうとしたが、どうにも胸の奥がざわつく。


一方、セリアは黙って全体を見渡していた。

建物。

配置。

人の集まり方。


そして――


訓練場の端では、馬たちが集められていた。


わざと火を焚き、金属を叩き、爆ぜる音を立てる。


馬たちは最初こそ暴れたが、次第に慣らされていく。


「……炎と音に慣らす、か」


セリアは小さく息を吐いた。


さらに、もう一つ異変があった。


「……あれ?」


普段、この場に顔を出さない者たちが居る。


――秘書ーズ。


書類と執務に追われ、訓練場とは無縁のはずの彼女たちが、なぜか揃ってこの場に立っていた。


「……」


セリアは、そこで確信した。


これは……ただの訓練じゃない。


しかし、その事を口にする事はなかった。


今はまだ、言葉にしてしまう段階ではない。


夜に向けて、静かに、だが確実に――

「何か」が動き始めている。


誰もが理解していないふりをしながら、それでも全員が感じていた。


この訓練は近いうちに来る「本番」のためのものだ、と。


数日が過ぎると、訓練場の空気はさらに変わっていった。


アステリアが率いる――

ロウルの船員たちが、訓練に加わり始めたのだ。


最初は遠巻きに様子を見ていた学生隊も、すぐに気づく。彼らはただの船乗りではない。


甲板での動き。

合図の出し方。

夜間を想定した無言の連携。


陸とは勝手が違うはずなのに、まるで最初からここに居たかのように、訓練へ溶け込んでいく。


「……船員まで来た、か」


誰かが小さく呟いたが、それ以上の言葉は続かなかった。


学生達は皆、薄々感じていた。


何かが始まる!

いや……もう始まっている?


だが、誰一人としてそれを口には出さなかった。


「エドランド軍と合流して進撃するのではないか」


「王都へ向かう準備なのではないか」


そんな考えが、胸の奥で渦を巻く。


口に出せば、現実になってしまいそうで。

口に出せば、怖くなる気がして。


だから、誰も言わない。


けれど――皆、同じ事を考えていた。


親がいる。兄弟がいる。

幼馴染が、かつての友が。


王都には、それぞれの「日常」が残っている。


それを守るのか。

それとも、壊さぬために戦うのか。


答えはまだ無い。


ただ一つ確かなのは、訓練の内容が日に日に実戦へ近づいている事。


夜。

狭い通路。

炎と音。

船からの上陸。


そして今度は――海を知る者たちまで加わった。


誰も言葉にしないまま、誰もが理解していた。


このまま終わる訓練ではない。


静かに、確実に。

全員が、その時に向かって歩き始めていた。

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