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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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夜明け前と取りこぼしかけた宝

両隊から出た結論は一致していた。

作戦決行は、夜明けに最も近い夜が最適。


それは私も同じ考えだった。


夜の闇が残り、しかし完全な夜ではない。

視界、音、混乱――どれもこちらに有利に働く時間帯。


訓練内容の編成は両隊長に一任する事にした。


夜間訓練の実施。

市街戦を想定した動き。

連れて行く馬も、炎や爆音に慣らす必要がある。


「……この辺は、経験者じゃないと無理ね」


私は素直にそう思った。


一方アステリアは、呼び寄せた熟練船員を使い、すでに訓練を開始していた。

特に蒸気機関の操作。

とはいえ、彼らは「勝手知ったる」連中だ。

それほど時間は掛からないとの事。


戻りの船で蒸気機関の回収も完了。

ひとまず面倒事は一つ減った。


「……さて」


私は一息つく。


「他に何をしようか――」


その瞬間。


がばっと、頭の中で何かがひっくり返った。


「……あ」


次の瞬間には顔が青ざめていた。


「……なんてこった!!」


戦いの事に気を取られすぎて――

肝心な事を、完全に忘れていた!!


「不味い!!」


私は全力で走った。



「ハァ……ハァ……!」


ロウガの前に飛び込む。


「どうした?メイヤ?」


返事の代わりに、私はロウガの首元を掴み、そのまま服ごと締め上げた。


「なっ!?く、苦しい!!どうした!?」


「肝心な事を忘れてた!!」


「だから離せ!!」


「紫石!!」


「へ?」


「紫石!!」


「……が、どうした?」


私はそのまま叫ぶ。


「あれの採れる場所を全部とは言わない!!

大規模な所を中心に、土地を買うか、権利を買うか!!今すぐ動いて!!」


「はぁ!?ここでも採れるし、今は使い道が解ってるけど、金になら――」


パァン!!


私は遠慮なくロウガを引っ叩いた。


「メイヤ!?何する――」


「よーく考えて?」


「……お、おう?」


「今、うちで紫石は何に使ってる?」


「蒸気機関だな」


「その紫石、さらに熱量を上げるために何にしてる?」


「……コークス」


「登録してる?」


「してる」


「使用料は?」


「我領に入って……」


「今の紫石の価値は?」


「……ほぼ、無い」


「アステリアさんに蒸気機関、二基渡したわよね?」


「……おうよ……?」


ロウガの顔が、そこで止まった。


「……待て」


ゆっくり、目が見開かれる。


「需要が……増える?」


「そう」


「ここで採れる量は全体量まだ不明……」


「そう」


「領外の紫石は……」


「ほぼゴミ価格」


ロウガの背筋が伸びた。


「……は?」


「誰もまだ、価値に気付いてないの」


私はにやりと笑う。


「もし、気付いた時にはロウガ商会が主要な採掘地をほぼ握ってたら?」


「……」


「蒸気機関の使用箇所がさらに増えたら?」


「……」


ロウガの目が、完全に商人のそれになった。


「……何倍だ?」


「さあ?」


私は肩をすくめる。


「桁が変わるわね」


「――――っ!!」


ロウガは拳を握りしめた。


「ピンポーン。だから」


私は指を突きつける。


「早く押さえなさい!!」


「任された!!!」


ロウガは叫び、踵を返す。


「うおっしゃーーーー!!!」


その背中を見送りながら、私は大きく息を吐いた。


「……ふぅ」


危なかった。


本当に、危なかった。


「みすみす、膨大な利益をドブに捨てるところだったわ……」


戦いは目前。

だが――

勝った後の世界を、取り逃がすわけにはいかない。


夜明け前の闇の中、戦と商の歯車は、静かに、しかし確実に噛み合い始めていた。

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