順調の裏で
アステリアは、まとめられた報告書に静かに目を通していた。
蒸気機関、試験結果――良好。
スクリュー、耐久・推力ともに問題なし。
吊り橋扉、設置完了。
理論値ながら搭載量も確定。
「……順調ね」
本国より、熟練船員を選抜中。
到着次第、実用試験へ移行予定。
報告書を閉じ、顔を上げる。
「思ったより早まりそうだぞ、メイヤ」
「ああ。船員がこっちに着き次第、より実戦的な訓練に入れる」
メイヤは壁に凭れながら頷いた。
「それと、あんたが頼んでたバリスタも設置完了だ。特殊矢の発射実験と、射手の練度向上も始めてる」
「情報は?」
「各部署に回してある。問題ない」
アステリアは小さく息を吐く。
「じゃあ次は、陸上兵力を載せて……」
「乗り降りの訓練だな」
「ええ」
一拍。
メイヤが、ふと思い出したように言った。
「それとさ。アステリアさん、早く引き取ってよ」
「引き取る?何を?」
「蒸気機関」
一瞬、間が空いた。
「……へ?」
アステリアが目を瞬く。
「本当にいいのか?」
「勿論よ。譲渡」
即答だった。
「早く、その機関に合った船、作ってみせてよ」
「……」
アステリアは肩をすくめる。
「ほんと、あんたには敵わねーな」
軽い笑いが落ちる。
だが、次の言葉で空気が変わった。
「それと、もう一件」
「?」
「うちの小型船に動力を付けた高速船で、王都の港を偵察させたんだけど……」
メイヤは簡単な絵を机に
「この船影、どう思う?」
アステリアは目を細める。
「……敵か味方かは別として」
指でシルエットをなぞる。
「外国船籍だ!間違いない」
「という事は……」
「そうだな。敵だ」
メイヤの声が低くなる。
「内戦だか内乱だか分からん最中に、堂々と王都の港に停泊してる。怪しすぎる」
「港が敵勢力化している可能性が高いわね」
「まあ、そうなる」
アステリアは顎に手を当てる。
「武装は?」
「商船だ。個人武装程度だと思う」
「兵力は?」
「おおよそ五十前後。うち基準だけどな」
「……」
アステリアの視線が動く。
「それが?」
「三隻、停泊中」
一瞬の沈黙。
「……三倍、か」
「厳しいなぁ」
「停泊中の船員は船で寝泊まり?」
「いや。そうとも限らねーなー。全員降りてる事はまずない。少なくとも3分の1程度は残してある筈だ」
「3分の1か、、、」
順調だったはずの報告の山が、
その一言で、重さを変えた。
完成に近づく船と、すでに動き始めている敵。
準備が早いか、仕掛けられるのが早いか。
天秤は、静かに揺れ始めていた。




