倒れて見えた普通
「おいー!タンカー!救護活動!訓練通りに!!」
訓練場に怒号が飛ぶ。
「姉御!!流石に不味いですって!」
「あら?ちょっとやり過ぎちゃって!てへぺろ♡」
「可愛く済むかぁ!!」
「医務室に運べ!衛生担当!負傷者を確認せよ!」
数名が駆け寄り、倒れているナータの状態を確認する。
「息あり!」
「気を失ってる模様!!」
「脈は問題ありません!」
「よし!直ぐに運べ!!」
担架が運び込まれ、手慣れた動きでナータが乗せられる。
その様子を見ながら、セリアは軽く手を振った。
「じゃあ私はこれで〜」
「——お母様?」
ぴたり。
セリアの動きが止まる。
「……変装って、何の事ですか?」
「待ちなさい!!!」
逃げようとした背中に、リディアの鋭い声が突き刺さる。
一方。
少し離れた場所で、近衛隊長は顔面蒼白で固まっていた。
……今の動き……
いや……まさか……
あれは噂だと思っていた……
……実在していたのか……?
——意識が、浮上する。
「……はっ……」
「大丈夫ですか?ナータ様!」
視界に飛び込んできたのは、心配そうな顔。
「……ミュネ……さん?」
「そうにゃ!まだ横になっててにゃ!」
「……何が……起きたの?」
頭がぼんやりする。
身体は……重い。でも痛みは思ったほどではない。
「奥様と実戦訓練と聞きましたが……?」
ナータは天井を見つめたまま、ふぅ、と息を吐いた。
「……ふふ」
「ナータ様?」
「見事に……負けたって事ね……」
ゆっくりと、言葉を噛みしめる。
「それなりに自信はあったのよ。剣も、体術も」
「今まで戦った相手……」
一瞬、沈黙。
「……手を抜かれていたのね」
それを認めた瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。
——ああ、そうか。
ここでは。
負ける事すら、普通なのか。
ナータは、天井を見つめながら小さく笑った。
……なるほど
これは、面白い領地だわ




