形になる音
浮ドックは既に完成していた。
潮位を計算し、船体は見事に持ち上げられている。
「……始まってるわね」
メイヤは腕を組み、作業の様子を眺めた。
「スクリュー取付、順調です!」
「固定完了まであと少しです!」
やはり問題になったのは、そこだった。
「海水の浸入……か」
流石にそこまでは読めなかった。
回転軸と船体の隙間。どう塞ぐのかと思っていたが――
「粘度の高い油で封止します!」
「さらに井戸用手動ポンプを併設。異常時は即座に排水可能です!」
「……それだけじゃありません」
別の技師が胸を張る。
「小型蒸気機関による自動ポンプも取り付けました。井戸用の改良型です」
「井戸の……」
メイヤは目を見開いた。
「なるほど。浸水対策を“前提”にしたのね」
誰かが苦笑する。
「最初から水が入るものとして考えましたので」
「素晴らしいわ」
思わず本音が漏れた。
私が一番悩んでた所、丸っと越えて来るんだもの!
船底に取り付けられたスクリューは、まだ静止している。だがその存在感は圧倒的だった。
「段々と……形になっていくわね」
「はい。想定より早いです」
「正直、スクリューと蒸気機関が一番の山だと思ってたのだけど……」
「そこが越えられたので、後は調整です」
メイヤはふっと息を吐く。
お願いしてた“何種類か”も……問題なさそう。
軸の角度、羽の形、回転数。
どれも試作は必要だが、致命的な壁ではない。
「この分なら……思ってたより早く完成しそうね」
「最短で試運転まで持って行けます」
「よし」
メイヤは踵を返した。
「じゃあ、とっとと終わらせましょう」
「?」
「終わったら温泉よ!」
一瞬の沈黙。
そして。
「「賛成!!」」
現場に、妙に明るい声が響いた。しかしこの中で温泉っという物が何なのかを理解してる者は居なかった。
蒸気と油と海水の匂いの中で、船は確実に“別の乗り物”へと変わり始めていた。




