普通という名の壁
うーん……。
普通に蒸気機関車、習っとるー!!
どういう事なのかしら。
単に乗り物が好き?興味本位?
それとも――
変なタイミングで気付いて、「私も行く!」って駄々を捏ねるタイプ?
両隊長さんが言ってた、よくあるパターン。
あれは正直、面倒だ。
だったら――
ガス抜き程度の情報を渡して、大人しくしてもらった方が、こちらは遥かにやりやすい。
うん。説明するなら、こっちの筋だ。
そう思った矢先。
「メイヤさん?」
「……げっ」
「げっ、じゃありません」
しまった。完全に後ろを取られてた。
「心配して、コッソリ見てるつもりでしたが……」
「要らぬ心配です!!」
勢いで返したけど、ナータさんはじっとこちらを見ている。
「歩きながらで良いので、お時間ありますか?」
「……?」
歩き出しながら、メイヤは切り出した。
「何故、この男爵領に?」
「お父様からの指示です。はっきり言ってしまえば」
「なるほど。では今回の戦の件、どの程度把握されてます?」
「うーん……正直、ほとんど何も」
……あれ?
最初に会った頃と、雰囲気が違う。
そう言えばフリフリの服じゃないし、視線も前より鋭い。
「……何だか、探りを入れてます?」
「うぉ!?」
直球が来た。
「じゃあ、こちらも正直に」
「はい。めちゃ探ってます!」
「はぁ……」
ナータは肩を落とす。
「この領地、謎よ。謎!」
「謎?至って普通ですが?」
「またその言葉!!普通!!」
ナータの声に苛立ちが混じる。
「誰に聞いても、普通、普通って!私から見れば異常よ!」
「そもそも、基準が違いすぎるのよ!」
メイヤは少し考えてから、静かに答えた。
「それは、どこでも同じだと思います」
「基準が違うのは当たり前です」
「だから――誰でも分かるように、基準を作ろうとしてるんですよ」
「……まあ、そうだけど」
「納得いってないだけよ。私の中で」
「今まで“正しい”と思っていた事が違った、
という事なら基準を替えればいいだけです。
少しずつでも」
「……そうね」
こりゃ、思ったより拗れてる。
メイヤは内心、息を整えた。
「それと、最初に言っておきます」
「失敗するかも知れませんが、我が領から反撃計画を進めています」
「……は?正規兵も居ないのに?」
「戦は、兵だけではありません」
「それとも――ご貴族のお茶会には、兵が必要ですか?」
「何を馬鹿な事を!」
「今、ナータさん自身が認めましたよね?」
「お茶会に、兵は要らないって」
「恐らく必要なのは知識と情報です」
「兵は、その後です」
「……」
「先日のガリオン領攻略。詳細な報告は、既に本国に上がっているはずです」
「一度、確認された方が宜しいのでは?」
ナータは、メイヤを鋭く睨みつけた。
そして、何も言わずに踵を返す。
去っていく背中を見ながら、メイヤは小さく息を吐いた。
……刺さったわね。
普通という言葉が壊した壁は、想像以上に厚かった。




