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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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普通の向こう側

エドラン軍仮設司令部。


頭を抱えていたのは、総指揮官エドラン本人だった。

数週間が経過しているにも関わらず、戦線は未だに安定していない。


それもそのはずだ。

相手は正規軍ではない。


安定したかと思えば後方で火の手が上がり、

部隊を向かわせれば、そこに残るのは燃え跡だけ。


「……我々は消火隊か?」


この一帯に展開する他領主へは、既に何通も文を送っている。

だが返ってくる答えは、どれも同じだった。


――様子見。


恐らく、向こうも同じ状況なのだ。

下手に動けば消耗するだけだと、誰もが分かっている。


返事が来るだけ、まだ良い方。

敵とも味方とも断定出来ない存在を相手に、

誰も決断を下せずにいた。


このまま長引けば兵は疲弊する。

だが撤退も出来ない。


反乱を主導する者達は、それを承知でこの形を取っている。だからこそ、尚更たちが悪い。


「……はぁ~~」


深く息を吐いた、その時。


「領主様!!」


「ん?」


「ナータ様から、文が届いております!」


「そうか……」


差し出されたのは一通の手紙と、小さな箱だった。


「……小箱?」


嫌な予感が胸を過る。

蓋を開けた瞬間、エドランの表情が凍り付いた。


――切られた髪。


「なっ……!?」


人質か?それとも……裏切りか?


慌てて文を読む。


お父様。

さぞ驚かれた事かと思いますが、この男爵領の方々は非常に友好的で、私も自由に行動しております。

その髪は、私自身の不甲斐なさへの戒めです。つきましては――


最後まで読み終え、エドランは机に肘をついた。


「……一体、男爵領で何が起きているのだ、ナータよ」


髪を切るほどの“何か”。

それが事態を動かす兆しなのか、ただの娘の思い詰めか。


答えは、まだ見えなかった。



一方その頃――。


船改造計画は、最優先事項として進められていた。


人員も材料も惜しみなく投入され、作っては壊し、壊れては直す、その繰り返し。


そしてナータ自身も、新たな視点を得る中で、多くの事に気付き始めていた。


中でも、最も衝撃だったのは――動く鉄。


今まで工場地域の奥へ足を踏み入れた事はなかった。工場とは、物を作る場所。ただそれだけだと、思い込んでいたからだ。


だが奥で目にした光景は、その認識を完全に壊した。


鉄が、動いている。


紫石、木材、黒い粉――

大量の荷を引き、馬も使わず、疲れる様子もなく、淡々と進む。

人が操作している事も確認出来た。その時、不意に声を掛けられた。


「お嬢ちゃん?あれ、好きなのか?」


「ええ!凄いわね!」


「つい最近、動き始めたんだ」


「そうなのね!」


「熱心に見てたな。興味あるのか?」


「……ええ、まあ」


「そしたら、受けてみれば?」


「……受ける?」


「あー?お嬢ちゃん、難民の人か?」


「…………」


「あ、すまなかった」


「受けるとは?」


「あれを動かす人を募集してるんだよ」


「……へ?」


「学科試験と確か面接もあったな」


「そうなの?あれって、極秘の何かじゃないの?」


「極秘?だって誰も隠そうとしてないし普通に見えるだろ?」


――また普通!!その“普通”のせいで!!私は!!


「興味あるなら町の求人募集してる建物があるから見てみな。じゃあな、お嬢ちゃん!」


その背を見送りながら、ナータは唇を噛んだ。この頃にはもう、煌びやかなドレスは身に着けていない。


少し育ちの良い娘に見える程度の動きやすい服装だった。ナータなりに効率を求めて。


――普通。

その言葉が、今のナータには、何よりも重く突き刺さっていた。

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